副題:人材流出時代のマネジメント戦術
著者:松本 順市 出版社:ナナ・コーポレート・コミュニケーション
2008年4月刊 \1,260(税込) 174P
新卒社員が3年以内に離職する率が40パーセントに迫っている(40パーセントを超えた?)というニュースを最近耳にしました。
日本が終身雇用社会でなくなりつつあるのは事実ですが、入社したばかりの若者がどんどん辞めていくのは困ったことです。
その困った状態を作り出しているのは、じつは管理職のあなたですよ!というのが本書の主題です。
著者の松本さんが以前勤めていた魚屋さんも離職率の高い職場でした。
早朝から夜遅くまで勤務時間が長く、仕事もきつい。職人気質の先輩は「包丁技術は目で盗め」とばかりに仕事を教えてくれない。渡り職人が高給で迎えられる業界ですので、他の魚屋へ転職することも当たり前です。
「いつだって辞めてやる!」という雰囲気がただよう職場に就職した松本さんは、社長の参謀役として、労働環境の改善に取り組みました。
みんなが喜んではたらける工夫を続けた結果、社員の定着率は飛躍的に向上し、会社の収益も上がりました。結果的に、その『魚力』という会社は30年連続増収増益を実現し、東証二部に上場を果たしたといいます。
現在は、人事コンサルタントとして、社員が成長する仕組みづくりを説いて日本中を飛び回る松本さんの経験とノウハウを凝縮したのが本書です。
「まえがき」で松本さんは、社員にやる気を出させるシンプルで大切な方法を早くも公開します。
それは、「部下を認める」ということです。
ふつうの上司は「成果をあげた部下は認めるが、成果をあげていない部下は認めてやらない」ものです。
しかし、「成果をあげる」と「認めてあげる」はニワトリと卵の関係です。
「認めてくれる人がいるからやる気が出る」というのが部下の心情なのですから、上司は先に認めてあげなければ何もはじまらない。それを「成果をあげれば認めてあげる」と偉ぶっていたのでは、また誰か辞めてしまいますよ、という助言から本書はスタートしました。
といって、本書は上司のこころがまえだけを説いた本ではありません。マネジメントを阻害する4つの要因を分析したり、ワクワクする職場づくりの原則を8つにまとめるなど、松本さんは精神論より「仕組みづくり」を教えてくれるのです。
私が「ほぉ〜」とうなってしまった仕組みづくりの例をひとつ紹介します。
ある食品スーパーの社長は、新しい店長が決まるたびに社員が辞めてしまうことに頭をいためていました。
相談を受けた松本さんが分析してみると、新しい店長は売り上げ金額の大きい店舗の主任から選ばれていることが分かりました。
しかし、店舗の売り上げは立地や店舗面積によって左右されます。
たまたま売り上げの少ない店舗に勤める主任は、自分が努力しても条件の良い店舗の主任ほど評価されないのが嫌になってしまいます。新しい店長を発表するとき、とうとう不満が爆発して辞めてしまう、というのが真相のようでした。
実際、すべての主任に「どの店舗で働きたいか」と無記名のアンケートを実施してみると、すべての主任が売り上げ上位3店舗の名前を書きました。
この食品スーパーでは、社員の能力や頑張りは評価されず、どの店舗に勤務しているかで評価されることを、みんな知っていたのです。
「どうしたら、社員にやる気になってもらえるのでしょうか?」という社長からの相談に対し、松本さんは、
売り上げではなく、客単価で評価する
という方式を提案しました。
売り上げは、「客数 × 客単価」で計算される。そのうち「客数」を考慮しないようにして「客単価」を評価せよ、というのです。
実際、新しい評価基準になってから、新店長が誕生しても辞める社員はいなくなりました。
ちょっと余談になりますが、日曜朝7:30からTBSで放送している「がっちりマンデー」という経済バラエティ番組を毎週楽しみに見ています。
この番組で今朝とりあけていたのが渋谷の109(マルキュー)でした。
ここ数年でこのテナントビルの売り上げが急成長しました。
その要因のひとつが、入居しているテナントを「売上金額」ではなく、「売上坪単価」で評価したこと、だそうです。
広い売り場を借りているテナントの売上金額が大きいのは当たり前。たとえ狭い面積でも、たくさんのお客さんを集め、面積あたりの売上金額が大きいお店を優遇するしくみを導入したことが、ビル全体の売上増加につながったとのことでした。
「仕組み」って大切なんですね。
精神論だけでなく、読んでいるうちに、松本さんの教える「仕組み」の作り方を会得させてくれる一書でした。