謎の会社、世界を変える。 エニグモの挑戦


著者:須田将啓/田中禎人  出版社:ミシマ社  2008年3月刊  \1,680(税込)  245P


謎の会社、世界を変える。―エニグモの挑戦    購入する際は、こちらから


広告代理店の博報堂に勤める若手社員が、ある時、すごいことを思いつきました。
同じ部署の同僚に「どう思う」ともちかけたところから、ベンチャー企業エニグモの挑戦がはじまりました。


本書共著者の田中氏が考えたのは、インターネットを通じて世界中から「お取り寄せ」ができるしくみです。
「テレビで見たあの店の商品を3個買いたい」とか、「旅行中に迷って結局買わなかったあの商品がやっぱり欲しい」などとリクエストすると、それを見た誰かが代わりに買って送ってくれる。
逆に、「知り合いの店で素敵な商品を見つけたので、欲しい人がいれば買って送ってあげる」という商品を写真付きで出品し、買いたい人から連絡が来たら、本当にお店で買って送ってあげる。


ヤフーオークションは、実際に商品を持っていないのに出品するのを禁じていますが、この仕組みは、売る側が在庫を持たなくても構いません。


実現したらすごい! 買い物の概念が変わるかもしれない!


もう一人の本書共著者である須田氏は大学院でコンピュータを学んでいたので、「俺が作ってみるよ」と軽い気持ちで引き受けました。
しかし、100人が同時に使えるシステムは作れても、ITシステムのプロでもない自分には、同時に1万人、10万人が使っても大丈夫なシステムを作るのはムリかもしれない。やるからには、きちんとビジネスとして作らなければダメだ。


イデアに惚れ込んだ二人は、起業してこのアイデアを実現することを決め、はやばやとサービスの名前を「バイマ」と決めました。


それからは、協力してくれる会社を探し、資金を集め、仲間を探し、事務所を探し、システム作りをきちんとしてくれる会社を探し……。どのベンチャーも経験する道を、田中氏と須田氏は、共同経営者としてお互いをはげまし合いながら、一歩一歩すすんでいきました。


最初にパートナーとなった会社と決裂したり、システム作りを発注した会社が期限通りに作ってくれなかったりしましたが、会社を辞め、6千万円も出資を集めてしまいましたので、もう後戻りできません。
信頼できる新しいシステム会社を探して福井県まで出かけていき、やっとバイマのシステムを完成させることができました。


ところが、いざオープンしたもの、なかなか会員数も取引数も増えず、会社もシステムも存亡の危機を迎えます。


この後も続くハラハラドキドキの展開は、実際にお読みいただくとして、なんとかエニグモ社は存続に成功し、世界を変えるサービス第2弾として「プレスブログ」を、第3弾として「フィルモ」を世に送り出すことができました。


少人数で人間関係を大切にしながら会社を運営する姿は、大学のクラブ活動を連想させます。実際に、社内で「部活動」を行っているという楽しそうな一面もありますが、やはりビジネスですので、シビアな側面も持っています。


会社が拡大し、上場を考えはじめたとき、それまで財務を見ていた社員に「CFOをやらないか」と打診しましたが、当の本人が「自分にはムリ」と断りました。ベンチャー企業の資金調達なら勉強しながらなんとかできたけど、上場を目指すレベルになったのだから、金融のプロを採用すべき、と進言したのです。


本当に金融のプロを役員として招いたあと、財務を離れた社員は、営業を担当しています。営業には営業の醍醐味がある、と楽しむ彼は、次のように言いました。
  「僕はなんでも楽しくやれる人間なんです」


まだまだ若い会社です。


しかし、「世の中をよりよいところにしたい」という田中氏の人生の目標は、グーグルの社訓「邪悪になるな(Don't Be Evil)」と通じるものがあります。


これからも「世界初」を武器に活躍する姿を見守りたいと思います。