リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間


2005年9月刊  著者:高野 登  出版社:かんき出版  \1,575(税込)  219P


リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間


著者が日本支社長を勤めるザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニーは1983年創業でまだ歴史の浅いホテルですが、つねにトップクラスの評価を得ているそうです。同時にベスト・エンプロイヤー賞を受賞が示すように、従業員にとって最も働きがいのあるホテル・カンパニーとして成長を続けています。
本書では、リッツカールトンがどのようなサービスで顧客の心を引きつけてきたか、そのために会社がどのような方針を持ち、どのように全社に浸透させているかを公開しています。


ある日、リッツ・カールトン・ボストンでトラブルが発生しました。
タイアップしているオペラハウス側が間違ってレストランの休日に予約を入れてしまい、オペラの休憩時間にお客様が何組もホテルに食事しに来てしまったのです。「お食事はご用意できません。クレームはオペラハウスにお願いします」と言うのは簡単ですが、リッツ・カールトンの対応は違いました。
バーの一面にレストランと同じようなセッティングをつくり、ルームサービスのスタッフが、手もとの食材でできる最高の料理を作ってお出ししました。
お客様に「もう無理だと諦めかけていたけど、さすがはリッツ・カールトンね」と言ってもらい、スタッフも幸せな気持ちになりました。


また、大阪のリッツ・カールトンで部屋の掃除をしていたスタッフは、宿泊していた大学の先生が残した忘れ物(講演資料と老眼鏡)を発見しました。FAXで送ると人目にふれてしまうし、その日の夕方には東京で講演があるので宅配便では間に合わない。
そのハウスキーパーは何のためらいもなく「のぞみ」に飛び乗り、東京駅で先生に資料を手渡しました。東京の講演会を大成功に終えた先生が常連客になったのはいうまでもありません。


ふつうのホテルで真似できそうもないサービスが、なぜできるのか?
それは、創業者が最高のホテルを目指しており、その情熱が社員に伝達され共有されているからです。
具体的には、社員全員がクレド(信条)と呼ばれるカードを常時携帯しています。社訓とか社是を掲げている会社もありますが、リッツ・カールトンでは社員一人ひとりが深く内容を理解するために、ミーティングで読みあったりする工夫が徹底しています。
また、ハウスキーパーの例で明らかなように、従業員には自分の判断で通常業務を離れたり、最大2000ドルまで使ってよいという権限が与えられています。他にも、お客様や他のスタッフから感謝された時に「ファーストクラス・カード」でお互いを称えあう、しかも、そのコピーが人事部門に送られて評価される“仕組み”が築かれています。
リッツ・カールトンでは、紳士淑女をおもてなしする従業員も紳士淑女である、という考え方が従業員教育の基本になっているそうです。
自分の役割をただの従僕と思っていては、本当のサービスはできないのでしょう。ディズニーランドで従業員を「キャスト」と呼んでいるのを連想させる話です。


本書で紹介される、お客様に感動を与えた実例の数々を読んでいると、自分まで気持ちよいサービスを受けているような気分になりました。
「情熱」と「仕組み」の両方を兼ね備えたリッツ・カールトンは、今後も優秀なホテルマンを育て、ますます発展していくことでしょう。