副題:娘たちの歳月
著者:梯 久美子 出版社:文藝春秋 2022年10月刊 1,980円(税込) 277P
9人の女性作家の生涯をたどり、それぞれの父親との関わり方に注目して、人生と作品への父の影響を明らかにする評伝集である。
著者の梯(かけはし)氏が取りあげた9人の名前と肩書きは、次の通り。
続きを読む著者:ジョン・ウィリアムズ/著 東江一紀/訳 出版社:作品社 2014年9月刊 2,860円(税込) 333P
アメリカの片田舎の貧しい農家に生まれ、大学の一教員として人生を終えた男の一生を描いた小説である。
主人公のウィリアム・ストーナーは1891年にミズーリ州の貧しい農家に生まれた。
農家の後を継ぐために新しい農業技術を習得してくるよう父に言われ、19歳のときミズーリ大学農学部に入学する。
しかし、2年生のとき、必修科目で受講した英文学の授業がストーナーの進路を変える。文学の魅力に惹かれ、専攻を文学に変更してしまったのだ。
卒業後に農家を継ぐことはなく、学位取得後、母校の常勤講師の職に就いた。
その後、英文学の研究と学生の指導にはげみ、結婚、助教授への昇進、長女の誕生という人生の節目を経験していく。
一見すると順調な経歴に見えないこともないが、大学では出世と縁遠く、教授に昇進することはなかった。また、心休まる家庭を作ることに失敗したストーナーは、職場でも家庭でも忍耐を重ね、65歳で病のため亡くなる。
身も蓋もない言い方をすると、うだつの上がらない大学教員が悲しい不幸な生涯を送った様子を淡々と描いた小説である。
続きを読む著者:石黒謙吾/文・写真 出版社:光文社 2023年9月刊 1,760円(税込) 159P
NHKが不定期で放送している「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」という番組がある。
「もの書く人の傍らにはいつも猫がいた。愛猫との異色ドキュメント」というネコ好きにグッとくる番組紹介に惹かれ、はじめて2023年9月18日「能町みね子と小町」の回を見た。
タイトル通り、ネコと過ごしながら作家として作品に向き合う日常を追う番組だ。
すっぴん(と思われる)能町さんがネコの傍らでキーボードを叩き、「結婚と称した同居生活」を送っているパートナーと並んで食事をしている映像は、同じNHKの密着ドキュメント番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」とは違って、ゆったりした時間が流れていた。
「いい番組を見つけた。次回は誰だろう……」と楽しみにしていたのが、9月25日放送回の「石黒謙吾とコウハイ」である。
続きを読む書名:我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上
副題:アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか
著者:エマニュエル・トッド 堀茂樹/訳 出版社:文藝春秋 2022年10月刊 2,420円(税込) 380P
書名:我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下
副題:民主主義の野蛮な起源
著者:エマニュエル・トッド 堀茂樹/訳 出版社:文藝春秋 2022年10月刊 2,420円(税込) 316P
本書は、家族、宗教、教育に着目して人類の歴史を辿ろうとする大著である。
著者のエマニュエル・トッド氏はフランスの歴史人口学者。
まだソビエト連邦が大きな力を持っていた1976年に、乳児死亡率が上昇しているという兆候をとらえてソ連の崩壊を予告した。
その後も米国発の金融危機、アラブの春などを次々に予言したことで知られている。
そのトッド氏の研究の集大成といえるのが本書である。
続きを読む著者:武田惇志 伊藤亜衣 出版社:毎日新聞出版 2022年11月刊 1,760円(税込) 214P
「行旅死亡人」という耳慣れない言葉は法律用語で、「こうりょしぼうにん」と読む。旅行中に死亡した人、と勘違いしそうだが、実際は「身元不明で引き取り手のいない遺体」という意味だ。
著者は2人とも共同通信社会部の記者。
遊軍記者として何か記事になるネタはないかと探していて、残されたお金の金額ランキング1位の行旅死亡人に目を付けたのだ。
ちなみに遊軍記者というのは、「裁判担当」とか「警察担当」(俗に言う“サツマワリ”)のように担当する記者クラブが決まっておらず、自分でネタを探して記事を書く記者である。
武田記者は裁判担当から、伊藤記者は警察担当から、それぞれ1ヶ月に遊軍担当に異動したばかりだった。
官報に載るということはまだ身元が分かっていないということなのだが、この女性「行旅死亡人」には残されたお金が3千4百万円もあった。
「相続財産管理人」に選任された弁護士に連絡して訪問のアポをとったとき、弁護士は、
「この事件はかなり面白いですよ」
と言った。
続きを読む著者:ジェーン・スー 出版社:新潮社 2018年5月刊 1,540円(税込) 237P
本書を知るきっかけは、本書を原作にしたテレビドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』だった。
2021年4月10日から6月26日まで毎週土曜 0時12分~0時52分(金曜深夜)にテレビ東京の「ドラマ24」枠で放送されていた。
吉田羊、國村隼の2人が主人公を演じることを知り、録画して楽しみに見始めた。
ドラマは「トッキーとヒトトキ」という番組のオンエア場面からスタートした(ように記憶している。違っていたらゴメンなさい)。
吉田羊が演じるラジオパーソナリティーが、
「TBXラジオから生放送中の『トッキーとヒトトキ』、パーソナリティーは、人生の酸いも甘いもつまみ食いのコラムニスト、トッキーこと蒲原トキコと」
と軽快に話しはじめ、アシスタント役の田中みな実が、
「TBXアナウンサー東七海がお送りします」
と続ける。
「さあ、ここからは皆さまのお悩みについて考える『晴れ時々お悩み』のコーナーです」
と、ほぼ毎回リスナーのお悩みに答えることがドラマの縦軸のひとつとなり、もうひとつのテーマである、トキコと父親の愛憎が入り混じる家族の物語が少しずつ進行していく。
続きを読む著者:沢木 耕太郎 出版社:新潮社 2022年10月刊 2,640円(税込) 574P
沢木耕太郎の作品は第10回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『テロルの決算』や第1回新田次郎文学賞を受賞した『一瞬の夏』など、初期の作品から愛読してきた。
しかし、紀行文の金字塔と呼ばれる『深夜特急』はなぜかページが進まず、読みはじめてから9年も経つというのに、全6巻ある文庫本のまだ第3巻に入ったばかり。カルカッタに到着したところなので、まだまだゴールは遠い。
おまけに、このブログをお休みしている間に長い文章を読む体力が落ちてしまい、本を広げて10分後にはまぶたが重くなってしまい、コックリコックリしてしまう始末だ。
そんな僕が沢木耕太郎の9年ぶり長編ノンフィクション、しかも「旅」が題材のこの本を読みとおすことができるのか不安だったが、読書力回復のためのリハビリと覚悟して読みはじめた。
心配していた通り、はじめは少し読んでは休み、少し読んでは休みをくり返してしまった。それでも、一見単調な旅の行程に少しずつ熱中するようになり、1ヶ月もしないで読了することができた。
ことし1冊目の書評は、僕の読書力回復に力をかしてくれた本書を取りあげ、旅の主人公である西川一三と聞き役の沢木耕太郎が紡ぎ出す物語の魅力について書かせていただく。
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