シンガポール航空で見つけた「思いやり」という世界で一番のサービス 


著者:橋本 絵里子  出版社:ナナ・コーポレート・コミュニケーション  2007年12月刊  \1,260(税込)  222P


シンガポール航空で見つけた―「思いやり」という世界で一番のサービス    購入する際は、こちらから


お客様に喜んでいただく精神を説いた本、というのをまた取りあげました。サービス業に身を置いていないので、あまり仕事に役立つわけではありませんが、「もてなしの心」というのは、やはり読んでいて気持ちの良いものです。
突き抜けたサービス精神といえば、ディズニーランドやリッツ・カールトンホテルが有名ですが、今回の著者は、シンガポール航空の客室乗務員経験者です。


シンガポール航空顧客満足度が常に上位の航空会社です。
学生時代にシンガポール航空に搭乗した著者の橋本さんは、「シンガポール航空で働きたい」と強く希望するようになりますが、残念ながら採用試験に落ち、旅行代理店に入社しました。
その後もシンガポール航空を利用するたびに「ここで働きたい」という思いがつのり、年齢制限ぎりぎりの25歳で採用試験に再チャレンジ。今度は合格した橋本さんは、入社して、ますますこの会社にしびれてしまいます。
事情で退社したあとも、シンガポール航空で学んだサービス精神を広める仕事を続け、現在は客室乗務員を目指す人に航空会社受験のアドバイスを行うエアラインスクールの代表を勤めています。


会社を辞めたあともこんなに入れ込んでしまうシンガポール航空の魅力を、橋本さんは「思いやり」という言葉であらわしました。
そして、この「思いやり」というサービスの精神を、どのように会社が定め、従業員と共有し、徹底していくかについて、採用・教育・昇進のしくみも含めて、具体的に解説しています。


たとえば、シンガポール航空では、多の航空会社よりもお客様が客室乗務員の顔を見る回数が圧倒的に違っている。他社のように食事や飲み物を運ぶときだけ客席をまわるのではなく、シンガポール航空のマニュアルでは1時間おきと決められています。
また、他社は機内食のメニューやヘッドセットをあらかじめ座席前のポケットに入れておきますが、シンガポール航空では客室乗務員が声かけしながら一人ひとりにお配りして歩きます。
標準的に作業しているだけで、お客様と接する機会が多くなるようにできていて、しかも様々なサービスマインド教育で、お客様に喜んでもらえる工夫をする。喜んでもらえた事例、反対にクレームやトラブルの事例をミーティングで共有する。等々。
具体的ノウハウもたくさん紹介されています。


とはいえ、あんまり著者がシンガポール航空のサービスを絶賛し続けるので、第3章も終わりまでくると、ちょっと飽きてきました。惰性で4章のなかばまで読みすすんだとき、「サービス」に読み疲れたことが恥ずかしくなるような文章に出会いました。


それは、社員のモチベーションについての橋本さんの考えです。


シンガポール航空は昇進するまでが大変な会社で、一生懸命にお客様に「思いやり」を発揮しても、なかなか昇進できなかったり、給料が上がらなかったりするので、なかには疲れてしまう社員もいるそうです。
モチベーションが維持できず他の仕事に移っていく社員は、やはり昇進や高額給与が主目的で、お客様へのサービスはそのための手段と考えているのではないか。
では、シンガポール航空で出世する人は、どういう人なのか?


橋本さんは、次のように確信しています。
  すでに第1章から、私は申しあげています。
  他人を思いやることが、自分自身の喜びである――と、
  そういうマインドができ上がっている人です。


そうだったのか……。
読んでいるだけで「サービス」に途中で飽きてしまった私は、やはりサービスマインドが無い、ということなのかもしれません。


本書はリトマス試験紙のような本です。
読んでいるうちに「思いやり」の強さを判定されてしまう。
他人を思いやることが好きで好きでたまらない。そういうサービスマインドが読者にあるかどうかが試されるのです。


さすが、“軍隊的”といわれるシンガポール航空の社風で育った著者です。
優しいことばで、厳しいことをさらりと言いますので、しっかり心構えをかためてお読みください。