自民党の終焉


副題:民主党が政権をとる日
著者:森田 実  出版社:角川SSC新書  2007年10月刊  \777(税込)  190P


自民党の終焉―民主党が政権をとる日 (角川SSC新書)    購入する際は、こちらから


政治や世相に関する本というのは、あっという間に古くなってしまう。
僕がこの本を手に入れたのが10月はじめで、読み終わったのは12月だった。こうしてレビューを書いてみようとしてみると、たった3ヶ月でずいぶん政局が変わってきたように思う。


ちょっとだけ時計を戻して、この本が出版された昨年の10月の政治状況を思い出してみよう。7月末の参議院議員選挙自民党が大敗して3ヶ月たっていた。はじめは続投するといっていた安倍首相も所信表明2日後の9月12日に辞任を表明し、その後の総裁選で福田内閣が誕生してすぐの頃。
本書の帯にある「政権交代へ秒読み開始!!」がまさに現実になろうとする予感に満ちていた。そう、本書はなんとタイムリーな時期に出版されたのだろうか。


最近、あまりテレビでお見かけしなくなったが、森田実氏は辛口の論評で知られる政治評論家である。
その森田氏が、自民党政治の行き詰まりを論じ、いよいよ民主党政権が誕生する、いや誕生させなければならない、と本書で叫んだ。


森田氏は、舌鋒するどく次のように自民党のダメさかげんを指摘する。

  • 小泉構造改革路線は否定された
  • 自民党長期政権の弊害
  • 政治をここまでダメにした世襲議員たち
  • 民主主義を忘れた自公連立内閣
  • 従米国家から脱却せよ


政治評論家というのはもっと冷静に、論理的に主張するものだと思っていたが、本書の森田氏のテンションは高い。よっぽど自民党がキライなんだなあ。
しかし、政治的立場や意見は人それぞれなので、これだけ自民党をけなして民主党を持ち上げていると、僕のように判官贔屓の人間は、ついつい、「そこまで言わなくてもいいんじゃないか」と思ってしまう。


要は「政権交代が必要」「一度は民主に」という心情を持つ人と、「民主党にまかせられるか」という気分を持つ人と、どちらの数が多いか、どれだけ投票所に足を運ぶか、ということで選挙の結果も決まるのだろう。
どちらの主張も正しいし、どちらの主張も間違っているかもしれない。本書は、民主より(というより、民主べったり)の本だが、逆の立場の人が読めば、反論だらけに違いない。


たとえば、自民党長期政権の弊害として、世襲議員が政治をダメにした、とか、特定の閨閥によって日本が支配されている、と言っているけれど、小沢氏も鳩山氏も世襲議員なのだし、民主党政権になったからといって旧支配層の閨閥に属す政治家がゼロになるわけではない。


ちょっとだけ僕の天の邪鬼な意見を書くと、「ともかく一度は政権交代を」という主張はおかしいと思う。1993年の細川内閣のときに非自民政権が生まれて、短期間とはいえ政権交代はなされている。あのとき、非自民政権が寄り合い所帯であるゆえに不安定な政権運営にならざるを得ないことが明らかになった。連立する各党がバラバラの主張をしてまとまらず、結局、当時の社会党自民党に呼び寄せられて非自民政権は解体した。


そもそも、二大政党制って理想的な政治体制なの? と僕は疑問に思っている。理由は、生物学でも社会学でも、変化と発展のために多様性は欠かせない要素だからだ。たった2つしか選択肢のない政治は危うい。


むしろ憂慮すべきは、日本の選挙の争点が単純化され、本当の民主主義からどんどん遠ざかっていることだ。郵政民営化社保庁たたき、年金問題。単一問題と時代の気分で投票行動が決まってしまう。むしろ、デマゴーグに近づいているのでは?


本書に話を戻すと、皮肉にも本書が出たあと、小沢一郎が「プッツン」して党首を辞めるの辞めないのと醜態をさらし、民主党人気に水を差してしまった。
しかし、福田内閣もめぼしいヒットがなく、むしろC型肝炎の薬害問題や年金問題で失点を重ねている。


森田さんの言うとおり自民党の終焉が近いかどうか。もう誰も予想できない。