セブン-イレブンの仕事術


副題:一兵卒のビジネス戦記
著者:岩本 浩治  出版社:商業界  2009年5月刊  \1,500(税込)  278P


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帯に7 years in seven-Elevenと書いてあります。もちろんブラッド・ピット主演の映画『Seven Years in Tibet』のもじりです。
映画『Seven Years in Tibet』がチベットという隔絶した世界を描いたように、本書はセブン-イレブンの急成長期というビジネス界の異境の地の経験をつづっています。


著者の岩本氏は『商売で大事なことは全部セブン-イレブンで学んだ』という本を出している通り、セブン-イレブンの勤務経験を持っています。


本書は、岩本氏がセブン-イレブンの店舗を指導して回るOFC活動経験を元に書いた「ノンフィクション」と謳っています。ノンフィクションですから「個人名・店名は仮名」と断っているものの、登場人物のリアルさ、生々しさは、とても創作とは思えません。
限りなくノンフィクションに近い本に違いない(著者の私小説であり、固有名詞以外は本当のエピソードを描いた一書)と勝手に断言しておきましょう。


1989年、秋葉原のソフトウェア会社で働いていた主人公の岩本(主人公の名前は、もちろん著者と同じ)は、ある日セブン-イレブンのビジネスモデルを解説した本を手にしました。引き込まれるように一晩で読み終った岩本は、「細うで繁盛記」や「どてらい男」にあこがれた小年の日の夢を思い出します。


数日後、セブン-イレブンの店舗経営指導員(OFC)募集の求人広告を目にした彼は、迷いながらも、応募してみることにしました。3次にわたる審査をパスし、岩本は給料も減り、先の保障もないOFC“侯補生”として、セブン-イレブンに転職しました。


初日のオリエンテーションで言われたのは、独特の社風に従ってもらう。社風になじめない者には辞めることを勧める、ということでした。ここからはじまる7年間のセブン-イレブン生活はまさに「闘い」の連続。入社式を描く第3章を、著者は「入隊」と名付けました。


2週間の新入社員教育で、小売業、チェーンストア等の理論を基礎から学び、実店舗での実習を終えたあと、岩本は数々の経験を積んでいきます。
修羅場に放り込まれながらも、逃げずに目標を達成する日々。花登筐の商売根性ドラマに匹敵するかどうか分かりませんが、主人公の成長とともにセブン-イレブン流ビジネスの凄みを味わうことができるスグレモノです。


本書には、事業拡大を目指すセブン-イレブンの非情なビジネスの鉄則が前面に書かれています。


いわく。
  OFCの能力と、勤続年数や年齢との間には何の相関関係もない
  OFCの業務の8割は商品対応(単品管理)である
  本部大嫌い。OFCの言うことなんかなんとも思っていない加盟店が
    たくさんある
  能力のないOFCほど、悪い意味で店に優しく、妥協が多い


オーナーはいつもOFCの実力を値踏みしますし、パートやバイトの中には隙を見て不正行為をはたらく者もいます。


これほど非情な戦場なのに、いや、戦場であるからこそ、OFCが本気になって結果を出し、従業員の心をつかめば、みんなが認めてくれるようになるのです。



ビジネス戦記なのに、ついホロッときてしまった場面を2つ紹介しておきます。


ひとつは、深夜アルバイトの不正摘発で人間関係がギスギスしてしまった頃の夜勤でのひとこま。


別のセブン-イレブン社員から疑われていたバイト学生が、主人公の岩本に言います。
「岩本さん。なんでそんなに働くんですか。こんな会社になんで入ったんですか」
「好きでやってるんだ。店の売上げを上げたいから。閉店させたくないから。もっと勉強して早く1人前になりたいから」
「FCになりたいんですか。人を疑うことしか知らないあんな奴みたいに」
「オープン当初の深夜の不正は聞いてるよ。でも、おまえ…、やってないだろ」


突然、バイト学生が泣き出します。


「…。…。俺、ほかの連中がみんなやってるの知ってました。止めたんです。オーナーさん、奥さんに悪いだろって。でも、みんな言うことを聞かなくて。でも、チクることなんてできなくて…」
「でもおまえ、よく辞めなかったな。偉いと思うよ。そこで辞めてたら一生疑われることになってたぜ」


このバイト学生が、岩本の言うことを何でも聞くようになったのは、言うまでもありません。



もうひとつは、セブン-イレブンのユニフォームも着ず、本部の指導も全く聞いてくれない「猛獣オーナー店」でのできごと。


本社取締役による店舗視察の予定が直前に岩本に伝えられます。視察先は、よりによって、いくら言っても店の清掃をまともにやってくれない、あの「猛獣オーナー店」が選ばれてしまいました。


ともかく店に飛んでいき、店長に「役員が店に来る…、かも…、しれません」と蚊の鳴くような声で伝えます。


すると店長は、パートさんたちに言いました。
「おーい。偉い人が来るんだってよ。どうする。岩本さんに恥かかせるわけにもいかねえべ。いい機会だから一丁きれいにすんべえか。ユニフォームも着ねえとまずいべ。使ってねー新品がいっぱいあったろ」


日常業務を通じて、岩本が店の売上げを上げてくれる「いいヤツ」と評価されたからこそ、「恥かかせるわけにもいかねえべ」と言ってくれたのでした。