人生相談。


著者:真梨幸子  出版社:講談社  2014年4月刊  \1,620(税込)  364P


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積ん読”が多くなると、山になった本を選んだ理由がわからなくなることがある。


どこかで書評を読んでアマゾンに注文したのか、書店でパラパラとめくって買うことにしたのか。
興味を持ったことに間違いはないのだが、何がきっかけだったのか思い出せない。


この本も「どうして選んだんだっけ?」と思いながら帰省旅行のカバンに入れた。


空港に向かう電車の中で手にとったものの、そもそも、これがどういう種類の本なのか分かっていなかった。


題名から勝手に予想したのは、西原理恵子の『生きる悪知恵』や上野千鶴子の『身の下相談にお答えします』のように、真梨幸子というエッセイストが読者から寄せられる人生相談にユニークな回答をする、という内容だ。


残念ながら、僕の勝手な予想は大ハズレ。
しかし、嬉しいことに、この本はアタリだった。それも大アタリ。


よくぞ、この本を選びました! と自分を褒めたくなった。
ゾクゾクするほどおもしろいミステリーだったのだ。


物語は大洋新聞の名物コーナーの人生相談に寄せられた投稿を軸に展開していく。


最初の相談は「居候している女性が出ていってくれません」という女子高校生からの相談。


人の良い祖母が困っている母子3人を居候させてあげたところ、我が物顔でふんぞり返るようになった。祖母が亡くなったので出ていってくれると思ったら、「出ていって欲しいならば、立ち退き料100万円払え」と言い出して居座っている。どうしたらよいか。という相談である。


新聞に載った相談を紹介したあと、相談者の弟である「僕」が、居候のせいでみじめな生活をしている様子を描写していく。


ある夜、「僕」が布団に入ったあと、姉と母のひそひそ声が聞こえてくる。

「今日のカレー、変な味がした。また何か入れたのかしら」
「このままじゃ、私たちが殺される」
「もう、殺すしかない」
「じゃ、どうやって殺す?」


時間は十数年飛び、「僕」はこの家に一人で住んでいる。


居候一家は置き手紙を置いて出ていき、その後「僕」の母が5年前に亡くなり、姉も結婚して家を出て行った。


あるとき、1千万円必要になった「僕」がこの家を売るために不動産屋に相談してみたところ、家の名義人が居候していた女の人であることが分かった。


じゃ、あの女の人が家主で、居候していたのは僕たち一家だったのか???


そういえば、裏庭の物置にスーツケースが置いてあるが、あの中身はなんだろう。まさか……。


物語が中途半端に一段落したところで、人生相談の回答が掲載される。
回答の内容は、「まずは、その居候の女性とじっくり話し合うことが大切でしょう」と、居候と仲良くすることを勧めている。


なんとか出ていって欲しいから相談しているのに、これでは回答にならない。
おまけに、「どうか心にゆとりを持ち、弱い立場の者を受け入れる豊かな大人になってほしいものです」と説教する始末。


なんだかなぁ……、と不満足感をかかえながらページをめくると、
「職場のお客が苦手で仕方ありません」という次の相談が紹介され、続いてキャバクラの店の中でのキャバクラ嬢と客の会話が展開されていく。


このお店の一番の売れっ娘が、しつこく通ってくるしょぼくれ男を諦めさせるために病気で入院したことにした、とヒソヒソ声で別のお客に伝えられる。


場面は変わって、キャバクラにいた「別の男」の部下の女性が通うエステサロン。
良かれと思って持っていったおみやげが、エステティシャンのアレルギー抗原だったので、エステティシャンが困ってしまう。
「嬉しいです」と心にもないことを言うべきか、それとも「いりません」とはっきりことわるべきか。


アレルギーのために薄れゆく意識の中、エステティシャンは人生相談の回答を思い浮かべる。


「相手は大切なお客様。プロとして、そこは割り切らなければなりません」と回答者は言うのだが、このエステティシャンはアレルギーのために死んでしまうことが、あとで明かされる。


こうして、9つの人生相談と紋切り型の回答の間に登場する人々が、それぞれの相談に関連したドラマを展開していくのだが、ひとつひとつの物語が、あとで出てくる物語の伏線になっている。


8つ目の物語あたりから、もやもやしていた謎が解明されはじめ、
9つ目の物語がおわるとき、慄然とする結末がやってくる。


そ、そうだったのかぁぁぁぁ!!


いろんな意味で、ゾクゾクすることをお約束する。