君が生きる意味


副題:人生を劇的に変えるフランクルの教え
著者:松山 淳  出版社:ダイヤモンド社  2018年7月刊  \1,512(税込)  277P


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ブラックな職場で苦しむ青年の目の前に、ある日小さな変なおじさんが現れ、人生に向かう姿勢をガラッと変えさせてくれる、という物語である。


……と、要約すると、ものすごく安直にひびく。


薄っぺらな自己啓発本の代表みたいに聞こえる。


ご安心あれ。
僕のブログで安直な本は取りあげないようにしているし、この本は「薄っぺらな自己啓発本」と正反対の本である。


この本は「安直」ではなく、ある意味「アンチョコ」といえる。


何のアンチョコかと言うと、『夜と霧』で有名なビクトール・フランクルの心理学である「ロゴセラピー」を分かりやすく教えてくれるアンチョコなのだ。


フランクルというと、
  「ナチス強制収容所に収容されて生還した」
という経歴が有名なので、ちょっと近寄りにくい印象を持っている人も多い。


じつは僕もその一人で、何度か『夜と霧』を手にしたが、そのつど、読みはじめる前に棚にもどしてしまった。


だから、この本の「はじめに」を読むまで、フランクルが「精神療法の第三ウィーン学派」と呼ばれていることも知らなかった。


第一学派のフロイト、第二学派のアドラーに続く第三学派の創始者なのだから、フランクルは心理学ではよく知られた存在らしい。


著者の松山氏も、かつて辛い出来事に直面して苦しんでいたとき、フランクルの言葉に支えられながら人生の難局を乗り越えた経験を持っているという。


そのフランクルの心理学を、ひとりでも多くの人に知ってもらいたい、と、とっつくやすい物語にあらわしたのが本書である。



主人公の「ボク」は、大手のアパレル会社で店長をしている。


急成長中のグローバル企業で、テレビCMでは好感度が高いけれど、世間からはブラック企業と叩かれている……っていうと、思い浮かんでしまう会社もあるが(笑)、これはあくまで架空の会社。


店長になって半年間、ほとんど休みが取れない。
ひと月の残業時間は80時間を超え、70キロの体重が62キロに減った。


店のスタッフともうまくいっていないし、お客様のクレームも多い。


本社の店長会議では、目標売上げに達していないことを他の店長の前で責められ、怒鳴られる。


何か解決方法をつかもうとして自己啓発セミナーに参加してみたが、『3時間でトラウマから解放される方法』という38万円のDVDセットを売りつけられそうになってしまう。

「ボクは何のために働いてるんだろう。
 何のために生きてるんだ。
 仕事辞めたい。会社辞めたいな。
 こんな人生、生きてて意味があるのかな……」

と主人公がつぶやいたとき、


「意味はあるべ。いつでも人生は意味に満ちてるべ」


と返す声がした。


小さな変なおじさんの登場である。


変なおじさんは、コロボックル族のフランクル3世という名前で、お悩みを抱える生物たちをサポートしているという。


変なおじさんは言う。

「あんだが人生の意味を問うことはないっちゃ。
 人生が、あんだに意味を問うてるんだから……」


こんな変なおじさんの言葉をすなおに聞けるわけはない。
このあと、「ボク」が心を開くようになるのだが、その導入部分の説明は省略。


ちょっと訛ったおじさんの言葉は、けっしてインテリっぽく聞こえないけれど、グサッ、グサッと「ボク」の心に刺さっていく。


仕事がうまくいってなくて、職場の人間関係にもつまずいて、理想の自分になっていない、と苛立つ「ボク」に向かって、変なおじさんは言った。

「あんだ、学生時代に理想だと思ってた仕事を今してることに気づいているが。
グローバル企業に入社して、一日も早くリーダーさなって実力をつけたい。そう思ってたべ。
あんだの夢さ、今、叶ってるべ。
成功してるっちゃ」


自分の成功に目を向けずに、「もっともっと」と、理想を引き上げていたのが、「ボク」が辛い理由のひとつだったのだ。


もうひとつ、今まで考えていたことと正反対のことをおじさんは言い出した。

「あんだの人生観は、自分が実現しようとしていることに焦点が合っていて、いつでも出発点が自分なんだぁ。
自分の欲求が満たされることを『意味がある』とするのではなく、人生からの求めを満たすことに意味を見出す
んだぁ」
「人生に意味があるか無いかと問うことはない。
なぜなら、人生が人間に意味を問うているから」


このあと、


 「運命は変えられる」
 「今と未来を変えれば、過去の意味は変えられる」


と、たたみかけたあと、

「オラと一緒に三つの価値を実現していけば、オラの言ったことがわかる。三つの価値とは、
 ひとつ目が『創造価値』、
 二つ目が『体験価値』、
 三つ目が『態度価値』だべな」

フランクル心理学の本格的講義と実践がはじまる。


反発しながら「ボク」の気持と行動がどう変わっていくか。
あとは、読んでのお楽しみとさせていただく。


フランクル研究の第一人者である諸富祥彦氏は、本書の「解説」で、フランクルの心理学の特徴を次のように述べている。

「人生から問われていること」というのは、言葉を換えれば「人生の使命」ということでもあります(フランクルはしばしば「意味」という言葉と「使命」という言葉を互換可能なものとして用います)。
 そう考えると、フランクルのロゴセラピーは、「運命の中に自分の使命を見いだす」ことで精神性を高めていく方法だと言っていいでしょう。
(中略)
 自分の人生の意味と使命を見出した時、人間の精神はもっとも高く引き上げられます。そして何事にも耐えていくことのできる強さを発揮し始めるのです。
 フロイトユングの心理学が「深層心理学」と呼ばれるのに対して、フランクルの心理学が「高層心理学」と呼ばれる所以です。
(中略)
 人間は「意味」なしに、つらく苦しい毎日を堪えしのんでいくことはできません。
 逆に、その「意味」がわかれば、たいていのことには耐えていけるものです。
「意味」志向の心理療法であるロゴセラピー、そしてその基盤となるフランクルの思想は、多くの人が生きづらさを抱える時代にあって、ますますその必要性が高まっていると言えるでしょう。


苦しいことがあったとき、その出来事に対処しているときは、耐えるのに精一杯で、とても「運命の中に自分の使命を見いだす」なんてできないかもしれない。


それでも、本書を読めば、一歩下がって自分の悩みを見つめるきっかけになる。
きっと。