55歳からのハローライフ


著者:村上 龍  出版社:幻冬舎  2012年12月刊  \1,575(税込)  333P


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ことし初めて買った本で、ことし最初に読了した1冊となった。
積ん読本が60冊以上あるというのに、他の本を差しおいて読んでしまうというのは、それだけ読者を惹きつける魅力があるということだろう。


あざといぞ! 幻冬舎


著者の村上龍が2003年に出版した『13歳のハローワーク』(幻冬舎刊)は100万部を超えるベストセラーになった。僕は『13歳のハローワーク』を読んでいないが、ベストセラーとなった本は、題名の印象が強い。


だから、正月休みに『55歳からのハローライフ』を書店で手にしたとき、
「13歳で売れたから、こんどは55歳のハローワークで売ろうという企画だな」
と思った。
企画に載せられるようで悔しかったけど、僕はまさに55歳なので、はじめて村上龍の小説を読んでみることにした。


書店でカバーをしてもらったので、読了するまで表紙を見なかったのだが、読み終えてカバーをとったら、あ〜らびっくり!


ハローワーク」じゃなくて、「ハローライフ」だったの〜〜!!


ためしに、Amazon で「村上龍 ハローワーク」と検索してみると、3番目にこの「ハローライフ」が出てくる。
この本を買った人の半分は、同じ勘違いをしているに違いない。


まぎらわしい題名を付けるなんて、あざといぞ! 幻冬舎


――と、幻冬舎を褒めるのはこのくらいにして(笑)、内容に入ろう。


本書は、十勝毎日新聞、神奈川新聞などの地方新聞に発表された新聞連載小説5編を収録した連作集である。
1つの作品の長さは、平均60ページ。400字詰め原稿用紙80枚から120枚の分量で書かれた中編小説である。


単にバラバラなテーマで書かれた5つの作品を集めたものではなく、「連作集」として書かれたものなので、共通する設定や主題がある。


まず、主人公が人生の折り返し点を過ぎた中高年であること。
経済的な問題、体力の問題、夫婦関係の問題など、何らかの困難な事態に直面していること。
そして、長寿社会ならではの将来への不安をかかえながら、新たな生き方を探っていること。
それぞれの物語のおわりに、何らかの「再出発」をはたすこと。


本書に登場するのは、文字どおり、中年男女の「ハローライフ」――新しい人生に向かう希望を描いた物語である。


経済的にも、困窮層、中間層、悠々自適層と変化を持たせた主人公たちの上にどんな物語が展開するのか。あとは読んでのお楽しみだが、一編だけあらすじを紹介させていただく。


連作第3編「キャンピングカー」の主人公は、半年前に早期退職制度に応じて会社を辞めた。
窓際に追いやられて仕事がおもしろくなくなったのが退職の大きな理由だが、もうひとつ、キャンピングカーで妻と日本中を旅行したい、というのも動機のひとつだった。


家のローンも完済しているし、退職金、預貯金、数年後に支給がはじまる年金を合わせると、経済的な不安はない。
子どもたちは社会人として働きはじめたし、両親も元気でしばらく介護の心配をする必要もない。


個展を開くほどの腕前を持つ妻といっしょにキャンピングカーの旅をするのは、長年の夢だった。
雄大な景色をスケッチしている妻を見守りながら、厳選した豆でコーヒーを淹れる自分の姿を思い描いたりもした。


ところが、いざキャンピングカーを買おうとすると、妻からやんわりと反対された。


中古で1千万円もするキャンピングカーの値段を気にしていると思い、経済的に安心させるために再就職してみることにした主人公だったが、予想もしなかった壁にぶつかる。


懇意にしていた取引先に当たってみると、はっきり断られた。新卒も採用できない状態で、とても余裕がない、というのだ。


同じように付き合いのあった何社かに断られたあと、人材紹介会社やハローワークにも行ってみたが、プライドを傷つけられるような応対を受け、「いったいこれまでの自分の人生って何だったのか」と考えこんでしまった。


とうとう、喉に妙な圧迫感をおぼえるようになり、心療内科の診察を受けることになった。
ドクターが見立ててくれた病気の原因とは何か。
主人公は、どのような「ハローライフ」を迎えるのか……。



ほど良い分量の小説をいくつも楽しめる「連作中編」は、読む側からするとオトクな読み物なのだが、書くほうは大変らしい。


本書の「あとがき」で、村上龍はつぎのようにぼやいている。

短篇は、スナップショットのように一瞬を切り取ればいい。だが、中篇小説は、必要不可欠ないくつかのエピソードをそれぞれ重ね合わせながら、一つの小世界を示さなければならない。しかも、本作は「連作中篇」だったので、全体として、それぞれの作品が響き合う必要があった。


苦労しながら著者が描いたのは、50歳台の婚活、再就職、家族の信頼の回復、友情と出会い、ペットへの愛、老いらくの恋、をテーマにした物語の数々だ。


少子高齢化を迎えた日本社会では、50代で老けこんでいられない。
人生の新しいステージを開くヒントとして、ご一読あれ。