物を売るバカ


副題:売れない時代の新しい商品の売り方
著者:川上 徹也  出版社:KADOKAWA  2014年5月刊  \864(税込)  207P


物を売るバカ売れない時代の新しい商品の売り方 (ワンテーマ21)    ご購入は、こちらから


『物を売るバカ』という刺激的なタイトルだが、決して物を売る商売をバカにする本ではない。


ふつうに物(商品)を売っていれば飛ぶように売れた時代は終わっていますよ、
工夫をしていかないとバカを見てしまいますよ、
物だけを売ってバカを見てはいけませんよ、という意図を縮めて『物を売るバカ』にしたのだ。


物が売れる要素には、「価格」「品質」「広告」「流通」が挙げられる。
もちろん、すべての要素で他社を圧倒すれば、商品は売れる。だが、そんなことが可能なのは、一部の大企業だけだ。


しかし、一般的に物が売れる要素のすべてが揃っていなくても、しっかり売れている会社や商品は多い。価格的に「正直、ちょっと高いかな」という物だったり、特に品質が高くもない、決して派手に広告を打っているわけでもなく、特別に流通に強くもない。にもかかわらず繁盛しているのだ。


理由は、「商品」そのものを売らずに別の要素を売っているから、だ。


では、その「別の要素」とは何か。


それは、ずばり、「物語」である。


本書は、どのような「物語」が人の心をつかむのか、どうすれば効果的に「物語」を発信できるかを伝授するマーケティング指南本なのである。


実例として最初に登場するのが、あるビール会社が「物語」で売り上げを伸ばした事例だ。


本書の帯に、次のような大きな文字が躍っている。

「業界5位」の
ビール会社が

××を売って
「業界1位」

になった!


答えは本書13ページをご覧あれ。
※「スーパードライ」ではない。念のため(笑)


著者の川上氏は「ストーリーブランディング」というマーケティングの新しい分野を開拓した先駆者であり、第一人者である。僕のブログでも
2008年に『仕事はストーリーで動かそう』


仕事はストーリーで動かそう    (レビューはこちら


2009年に『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』


価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ    (レビューはこちら


を紹介した。


『仕事はストーリーで動かそう』では


「人は感情で動く動物であり、ロジックやデータだけでは動かない」
「人類は太古の昔からストーリーが大好きだった」
「ビジネスの現場でもストーリーを使わない手はない」
「専門家でなくてもストーリーをつくることができる」


という視点が新鮮だった。


『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』では、

  • 一年を通してかき氷で勝負する日本唯一のかき専門店「埜庵(のあん)」
  • 牛に比べて産地やブランド表示が少ないブタ肉をブランド化した「みやじ豚」
  • ユーミン御用達ビーチサンダルのお店として知られるようになった「げんべい」
  • サイコロ給、24時間遊び24時間働けるオフィス等で知られる「面白法人カヤック
  • 「日本一小さい牧場」で有名な「イイダ牧場」


など、湘南だけでよくこれだけストーリーブランディングの成功例を集めたものだ、と感心した。


今回の『物を売るバカ』では、ストーリーブランディングの大切さや「ストーリーの黄金律」を一から説明して基本をふまえた上で、新たな成功例で説得力を増し、「ラブストーリー戦略」「ストーリーブランディングの『3本の矢』」も繰り出している。
「物語で売る」「物語で魅せる」ことについて、川上氏の現時点での集大成といえる一書だ。


僕のレビューはネタバレ自粛でお届けしているので、詳しい内容は読んでのお楽しみとさせていただく。


ただ、本書が安直なノウハウ本と誤解する人がいるといけないので、ひとつだけ「ヤラセはダメ」ということをお伝えしておく。


川上氏は、次のように言っている。

「ビジネスにおける物語はフィクション(作り物)であってはならない」

 くれぐれも、物語を創作しようとは思わないでください。
「ビジネスにおける物語は」は創作するものではなく、「発見」するものです。


心をうつ「物語」が簡単にできると思ったら大間違いなのだ。


真剣に自分の商品を愛し、真剣にお客様に喜んでもらおうと考える人にこそ、この本を読んでもらいたい。