HOPE! おばちゃんとぼく


著者:阪本 啓一  出版社:メディアファクトリー  2009年1月刊  \1,000(税込)  167P


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若手社員が職場を放棄してでかけた3日間の旅の物語です。


経営コンサルタントが“自分ブランド”について教えるビジネスストーリーということで、実は、あまり期待しないで読みはじめました。


以前取り上げた川上徹也著の『仕事はストーリーで動かそう』にも書いてあるとおり、ストーリーには力があります。難しい理論もストーリーに乗せて読むとスーッと理解できるという利点が
あります。
しかし、こういうストーリーを作る作者は「難しい理論を理解させる」ほうに重点を置いているので、物語の内容や登場人物が平板になりがちです。


この本も“自分ブランド”がメインで、物語はありきたりに違いない。


――うれしいことに、私の予想は、裏切られました。


意外にも、登場人物が生き生きしています。
主人公のやるせなさが伝わってきます。
伏線と意表をつく展開が待っています。


こりゃ、本書で小説家デビュー、という著者プロフィールもまんざら嘘じゃなさそうです。


あらすじだけを簡単にまとめても本書の良いところは伝わらないと思いますが、最低限の情報としてストーリーを紹介しておきます。


本書の主人公「ぼく」は、おもちゃ会社の若手社員。社運をかけた新製品の発表日に代理店からクレームを受け、自分の責任でもないのに叱責されて仕事がイヤになってしまいます。
付きあっていた彼女からの突然の別れ話も重なり、「ぼく」は「休みます」と一方的にメールを会社に送って新幹線で西に向かうことにしました。


東京駅で関西弁のおばちゃんに声をかけられ、おばちゃんと「ぼく」は自由席で隣に座ることになってしまいます。
聞き出されるままに語り出した「ぼく」の悩みを聞いたおばちゃんが連れていってくれたのは……。


冒頭にも書いたとおり、自己啓発系のビジネスストーリーと思えないほど一つひとつの場面描写が真に迫っていました。
特に印象に残ったのは、次の場面です。


お客さんを楽しませるためのサービスに徹底する添乗員のはたらきぶりを見せたあと、おばちゃんが、どうしてあそこまで一生懸命になってるか分かる? と質問したときのこと。

「ぼく」は答えます。

  「ぼくは旅行会社の添乗員じゃないですから」


最初から投げやりな態度を示している主人公ですが、この場面では、おばちゃんが怒る前に、私もイラッときてしまいました。


先月取り上げた『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』の中にも似たような場面がありました。
船長に「暑いのぉ」と話しかけられ、著者は素っ気なく「赤道ですからね」と答えたのです。


もう、「素っ気ない」なんてレベルじゃありません。
「ぼく」も、マグロ船に乗った著者も、なんで、こんな受け答えをするかなぁ〜〜!!


……なんて怒っているうちに、物語にどんどんハマってしまっている自分に気づきました。
著者の描写力にしてやられたようです。


もうひとつ、おばちゃん語録の中から、私が快哉を叫んだものを紹介しましょう。「ぼく」が質問をしようとしておばちゃんに話しかける場面です。


  「おばさん、質問していいですか?」
  「わたしね、最近の人のね、そのね、『質問していいですか』って
  いうの、大嫌いやねん。あかん、言うたら、やめるんかいな。無意味
  な儀式は、やめるこっちゃ」


おばちゃん、よく言った! その通り!


よく似た言い回しで、「ねぇ、ひとつ余計なこと言ってもいい?」という言い方を好んで繰り返す人もいます。
「余計なことなら言わないでください」と答えるようにしているのですが、こういう人にかぎって、言いたいことを引っ込めてくれたことは一度もありません。


まったく……。


またまた興奮してしまったところで、物語の本筋から少し離れてもいいですか? ……って、無意味な儀式をやっちゃってもいいですか?(笑)


本の内容という本筋から離れますが、デザインについて気づいたことがあります。デザインも本の大切な要素のひとつですので、聞いてください。


本書の目次は、新幹線の鼻先に似せた、次のようなデザインになっていました。

                       1番線
                        東京
                2番線     ↓
                名古屋    名古屋
          3番線     ↓
          京都     京都
   4番線     ↓
   大阪     大阪
    ↓                 / ̄ ̄\
   神戸                |   |
                     |目次 |
          車庫          \__/
          東京へ


                    エピローグ
                    ふたたび
                    1番線へ

               あとがき


いいなぁ。こういう遊びごころ。


最後に、「あとがき」に書いてある、著者の言葉をお伝えしておきます。


  あなたにとって、本書が、文字通り「HOPE(希望)」となることを
  祈っています。


私からもお勧めです。