価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ


著者:川上 徹也  出版社:クロスメディア・パブリッシング  2009年6月刊  \1,470(税込)  206P


価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ    購入する際は、こちらから


『価格、品質、広告で勝負していたら……』という長い題名は、はじめ帯に書くつもりの言葉をタイトルにしたものだそうです。


商品を売るために価格で勝負するのも、品質にこだわるのも、広告に力を入れるのも、一般的には大切なことです。しかし、他社も同じことを仕掛けてきますから、勝ち抜こうと思うと、それぞれ莫大な費用を投入しなければなりません。
体力のある大手ならともかく、中小企業で価格、品質、広告で勝負しても勝ち目はありませんよ、というのが本書のスタートです。


では、どうしたらいいのか。


著者の川上さんが「はじめに」で早くも種明かししたのは、「ストーリー(物語性)」が人の心を動かす、ということです。


川上さんは3つのレベルに分割したストーリーの融合から生まれる「3本の矢の法則」や、ハリウッド映画のストーリーを分析した「ハリウッドの黄金律」を駆使し、お金をかけるより知恵をかける手法を丁寧に教えてくれます。
理論編、実例編、実践編に別れていますが、やはり読者がストーンと納得する実例編から読みはじめることをお勧めしておきましょう。


前著『仕事はストーリーで動かそう』で挙げていた具体例は、ルイ・ヴィトンエルメスボルヴィックなど、有名企業だけど自分とは遠い存在に感じる例が多いように感じましたが、今回は違います。
中小企業の戦略を述べていることもあって、小さな会社や地方の会社の例を取りあげている。しかも、川上さんが居を構えている湘南の店や会社を多く紹介しているので、親近感を持って読むことができます。


一年を通してかき氷で勝負する日本唯一のかき専門店「埜庵(のあん)」、
牛に比べて産地やブランド表示が少ないブタ肉をブランド化した「みやじ豚」、
ユーミン御用達ビーチサンダルのお店として知られるようになった「げんべい」、
サイコロ給、24時間遊び24時間働けるオフィス等で知られる「面白法人カヤック」、
「日本一小さい牧場」で有名な「イイダ牧場」など、よくこれだけ湘南の実例を集めたものです。


個人的には、書評を通じて知り合った「伝説のホテル」の鶴岡秀子さん、日本で最初のTシャツ屋2代目社長にしてメール道の達人の久米信行さんの実例も参考になりましたが、一番びっくりしたのは、「生キャラメル」が大ブレイクした「花畑牧場」の経営理念作りを川上さんがお手伝いしていたことです。


これだけ実例を挙げ、理論で裏付けされれば、川上さんのストーリー作りの手法が腑に落ちること間違いありません。


最後にひとつ、ドッキリするような川上さんの指摘を引用させていただきます。

   はっきり言います。「お客様第一主義」とミッションや経営理念に書いて
  ある会社やお店は、かなりヤバイです。
   それは本当の本当に本音ですか?
   あなた自身や社員、家族よりもお客さんの方が大切なのですか?
   建て前だけのミッションや理念では、誰の心も動かせませんよ。
   手垢にまみれた言葉では、あってもなくても同じですよ。