経営の未来


副題:マネジメントをイノベーションせよ
著者:ゲイリー・ハメル ビル・ブリーン/共著 藤井清美/訳
出版社:日本経済新聞出版社  2008年2月刊  \2,310(税込)  344P


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世の中に新しい製品やサービスが次々と登場しているのに、企業の経営手法は、20世紀初頭からほとんど進化していない。
企業の業績を伸ばし、成長しようと思ったら、経営管理の世界でイノベーションを起こすべきだ。
本書はそれを手助けする。


――読者に期待を持たせる、力強い宣言で本書は始まりました。


言われてみれば、現在の企業の運営形態は100年近く変わっていないことが分かります。
生産計画や生産手順の方法も、原価計算や損益分析の手法も、事業部制組織構造も、ブランド管理の手法も、20世紀はじめに発明され、現在も活用されています。


新製品を開発することも、技術的イノベーションも大切ですが、これからは経営管理をつくり直すことが最も効果のあるイノベーションのようです。


成功した経営管理イノベーションの例として、まずトヨタ自動車が取り上げられます。アメリカの自動車メーカの常識では理解できない方法で、トヨタは生産効率を上げつづけてきました。
欧米のメーカと違っていたのは、現場の社員が生産効率を上げたり問題を解決して変革推進者になれる制度(カイゼン活動)を確立したことです。


ヘンリー・フォードが「手を貸せと言ったら、どうしていつも頭もついてくるんだ」と不満をもらしたと言われている通り、アメリカ企業の常識では、品質や効率の向上は本社の専門家にしかできないものでした。
著者は、この経営管理手法を「知の封建主義」と呼んでいます。


このような古くからある“常識”を打ちやぶって著しい成功を収めている例として、他に、ホールフーズ・マーケット(スーパーマーケット)、ゴアテックス生地で知られるW.L.ゴア社、そしてグーグルが取り上げられ、それぞれの型破りな職場環境がレポートされます。

  • 新入社員を採用するかどうかは、4週間の試用期間後にチームメイトの投票で決まるという採用制度
  • 「上司」「管理職」という考え方がない組織構造
  • 自由な「遊びの時間」を一定時間使える勤務時間配分
  • 小規模な自己管理型のチーム


通常の会社がますます管理を強めていることを考えると、まさに革命的な経営手法――経営管理イノベーションと呼ぶにふさわしい実例の数々です。


では、どうやって経営管理イノベーションを起こすのか、という問いへの答えは、本書の7章から展開されています。


常識という束縛からのがれ、効果のある新しい経営手法を考え出すのはひとすじ縄ではいきません。
読者の背中を押すために、これでもか、と紹介される例の中には、副社長でも戦略室長でもない、ただの中間管理職が会社を変えた実例も登場しました。
「行使できる権限も自由に使える資源も限られているなかで、どの程度、経営管理イノベーションを推進できよう」という読者のつぶやきに対し、著者は「あなたが思っている以上にできる」と励まします。


自分の職場も、ひょっとすると楽しい場所に変えられるかもしれない。そう思わせてくれる一書でした。


余談になりますが、私が愛読しているメルマガのひとつ「ビジネスブックマラソン」に本書が取り上げられたのは、2月末のことでした。


  「世界的ベストセラーとなった経営戦略のバイブル、
   『コア・コンピタンス経営』の著者、ゲイリー・ハメルに
   よる待望の新刊」
  「経営論、戦略論の大家が久々に放つ大型新刊」
  「今読まずしていつ読もう。ここ2、3年で読んだ中でも
   最高傑作のうちの一つです」


発行人の土井さんの強い推薦文を読み、私もさっそく申し込みました。
図書館に(笑)。


いくら土井さんの激賞とはいえ、経営者でもない私に興味が持てる本か分かりませんので、図書館で読もうと思ったのです。


こういうとき図書館は助かります。当たりかハズレか分からない本を気軽にお試しできるのですから。
逆に、図書館で困るところは、他に読みたい人がたくさんいる場合、順番がまわってくるのが遅くなることです。


本書も人気本で、私の順番は8月になってしまいました。


読みおわって思ったのは、
  「こんなに面白い本なら、もっと早く読みたかった」
ということです。


本書に興味を持った方は、私のマネをせずに、すぐに購入することをお勧めします(汗)。