紹介できなくてゴメン特集


書評家の目黒孝二氏は、これから読もうとしている本を、机の上にならべるそうだ。
読みたい本はどんどん増えるのに、読める量はかぎられているので、新しい本が増えると、机の上からあふれた本を、机の横に置いてある書棚の「これから読む本」コーナーに移動する。


「これから読む本」コーナーは3段を割り当てているが、やはりすぐにいっぱいになるので、3週間に一度、奥の本棚に移動する。奥の本棚に移動した本は、よほどのことがない限り、もう読む機会はやってこない。


本を移動しながら、目黒氏は、読めなかった本に向かって、
  「ゴメンね、ゴメンね……」
と心の中で泣きながら謝るのだという。


以上、ずーっと昔に読んだ目黒氏のエッセイの内容を、記憶を元に再現してみた。
「3段」とか「3週間」の数字は不正確かもしれないが、目黒氏が本に向かって「ゴメンね、ゴメンね……」と謝る場面は、たぶん間違っていない。


目黒氏と比べるのはおこがましいかもしれないが、僕も、日々、本棚の本に謝っている。


いつまでも手に取ることができない本に「読めなくてゴメンね」と詫び、読みおわったのに書評を書いていない本に「読書ノートに紹介できなくてゴメンね」と謝罪している。


献本してもらって、興味もあったのに読めなかった本は、ときどき「献本御礼」コーナー(→こちら)で紹介しているが、読みおわったのに書評を書けなかった本には、いつまでも後ろめたい気持ちを持ちつづけてしまう。


心理的負担を引きずる本が増えてきたので、ともかく、書名と概略だけ紹介して、すっきりすることにしようと思う。
興味を持って手にとっていただければ、僕がすっきりするだけでなく、本も喜んでくれると思う。
いつもと違う趣向だが、7冊ほどお付き合いいただけると嬉しい。

1冊目  内田樹著『街場の文体論』


書名:街場の文体論
著者:内田樹  出版社:ミシマ社  2012年7月刊  \1,680(税込)  299P


街場の文体論    ご購入は、こちらから


大学での内田氏の講義録を書籍化した「街場シリーズ」の1冊。
定年で教授をやめる最後の年の講義なので、たしか最後の1冊のはず。


「これだけはわかっておいてほしい」ということを全身全霊傾けて語った「クリエイティブ・ライティング」講義の内容が納められている。


石黒謙吾さんから、「この本を読んで考えさせられる内容がたくさんあった」と勧めていただいて読みはじめた。


内田氏が全身全霊傾けて語っている内容の中には、難しくてよく分からない部分も多かった。何度も読み返すことで著者の深い意図が分かってくるのかもしれないが、1度しか読んでいない。


石黒さんがどこに興味を持ったのか想像しながら読むのは楽しかったが、なんとなく未消化感覚があり、紹介できませんでした。
ゴメンなさい……。

2冊目  葉室麟著『蜩ノ記


書名:蜩ノ記ひぐらしのき)
著者:葉室麟  出版社:祥伝社  2011年11月刊  \1,680(税込)  327P


蜩ノ記    ご購入は、こちらから


藩内の権力闘争の結果、幽閉先で家譜編纂と十年後の切腹を命じられた男を中心に物語が展開する時代小説。


僕の読書ノートの読者から、「葉室麟は僕の大学の後輩で、ものすごくおもしろいから、ぜひ読んでほしい」と勧められ、手に取った。


胸に秘密を抱えた主人公がいつ秘密を明かすのか、という一種のなぞ解きに注目しているうちに、物語に引きこまれていく。
ストレートに「正義」を貫く主人公の姿に、清々しい読後感をおぼえる。


時代小説で「正義」をテーマにしている、ということで、山本周五郎の『日本婦道記』と対比させながら書評してみたい、と思っているうちに書きそびれてしまいました。
ゴメンなさい……。

3冊目  真山仁著『黙示』


書名:黙示
著者:真山仁  出版社:新潮社  2013年2月刊  \1,785(税込)  369P


黙示    ご購入は、こちらから


日本の農業と農薬の問題に一石を投じる小説。


農薬を開発する技術者と、農薬の被害を追究する元戦場カメラマン、農水省の女性キャリア、農薬問題を政治的かけひきに使おうとする野心家の野党党首の4人を軸に物語が展開する。


真山氏が2010年に出版した『プライド』という連作短編集に収録されている「ミツバチが消えた夏」に関連したテーマである。


『プライド』は、人は何のために働くのか、どうすればプライドを守りながら仕事をしていけるのか、と問い続ける作品だった。(僕の書評は、→こちら


6編めの「ミツバチが消えた夏」の主人公は、元戦場カメラマンである。養蜂家に転じて3年をすぎたある日、とつぜん働き蜂が姿を消してしまった。


原因と思われる農薬を散布した直後、目の前でハチが苦しみながら死んでいくのを見て、彼の胸に難民キャンプで餓死していく子どもたちの姿がよみがえった。


こうして、ミツバチのために農薬と闘うことを決めた主人公が、『黙示』の主要人物として再び登場している。


前作『プライド』との関連を深掘りして書評したい、と思っているうちに書きそびれてしまいました。
ゴメンなさい……。

4冊目  中島未月著『笑顔のおくりもの』


書名:笑顔のおくりもの
著者:中島未月/文 奥中尚美/写真  出版社:PHP研究所  2012年9月刊  \1,260(税込)  79P


笑顔のおくりもの    ご購入は、こちらから


コピーライターで五行歌人の中島未月さんのメッセージブック。


5行という短い入れものに、心をふっと解放してくれるメッセージを封入している作品集だ。


心にしみるメッセージがちりばめられているのだが、読んでいない人にどんなふうに心にしみるのかを伝えるのは、ものすごく難しい。


かつて、中島さんのメッセージブックは、2冊取りあげたことがある。


前の2冊と違うやりかたで伝えたい。
どうやって伝えようか悩んでいるうちに書きそびれてしまいました。
ゴメンなさい……。

5冊目  田中正道著『ボイス ソーシャルの力で会社を変える』


書名:ボイス ソーシャルの力で会社を変える
著者:田中正道  出版社:日本経済新聞出版社  2012年4月刊  \1,995(税込)  253P


ボイス ソーシャルの力で会社を変える    ご購入は、こちらから


SNSを使えば何かいいことがある、と企業がソーシャルメディアに目をつけはじめた2012年4月に出版された、「SNSは魔法の箱ではありませんよ」という警告書。


SNSを使うということは、顧客の言葉に耳を傾けるということ。そのためには、従業員の心構えをかえなければならないし、そもそも企業体質そのものをオープンでソーシャルなものに変えなければ、何のメリットもありませんよ、という厳しい内容。


ちょうど、その頃、近くに住む同年代の男性からFacebookのお友だちリクエストが届いたところだった。
さっそくプロフィールを覗いてみたところ、その方は、まだ友達が3人しかいない。


はて? どうして今ごろFacebookを始める気になったのだろう、と不思議に思って尋ねたところ、
  「会社でFacebookを使ったマーケティングを検討することに
   なったので、友達を増やそうとしているんです」
との答えが返ってきた。


えっ、マーケティングFacebookを使うんですか?
なんだか違和感を感じた。
Facebookの友人から何かセールスされたら、きっと嫌だろうなぁ。
かえって評判を落としてしまうんじゃないかなぁ……。


読みおわったばかりの『ボイス』の一節が頭にうかんだ。

  社内基盤や社内の理解の伴わないソーシャル活動は、
  SNS上で消費者に大きく叩かれ、導入しなければ
  よかったと後悔させる結果すら生みかねません。


そうか。どうせやるなら、本気で消費者の声に耳をかたむけなくっちゃダメなんだ。
そのご近所さんに、さっそく『ボイス』を読むことを勧めた。


自分の会社を変えてしまう覚悟がないと、何のメリットもないよ。本気でやるなら、ソーシャル化の波に乗るための戦略と戦術を教えるよ、というのが『ボイス』の内容だ。


この本は、僕のご近所さんだけでなく、きっと他の人にも役に立つ。
僕が寄稿している「Tecwave」読者にも参考になるはずだ、と書きはじめたのだが……。


完成させることができないまま、時間が経ってしまいました。
ゴメンなさい……。

6冊目  城山三郎著『少しだけ、無理をして生きる』


書名:少しだけ、無理をして生きる
著者:新潮社(新潮文庫)  出版社:新潮社  2012年8月刊  \452(税込)  200P


少しだけ、無理をして生きる (新潮文庫)    ご購入は、こちらから


仕事がきつくなって、ものすごく無理をしているとき、『少しだけ、無理をして生きる』というタイトルに惹かれて読みはじめた。


広田弘毅浜口雄幸の生き方を紹介し、自分の作家としての態度を交えながら、生きがいについての城山氏の考えを述べている。


かみしめるように、ゆっくりと読ませてもらった。
少しだけ元気が出た。


城山三郎作『男子の本懐』とからめながら書評を書こうと思ったが、天下国家や使命感を論じるような心の余裕がなく、書きそびれてしまいました。
ゴメンなさい……。

7冊目  高橋源一郎著『ぼくらの文章教室』


書名:ぼくらの文章教室
著者:高橋源一郎  出版社:朝日新聞出版  2013年4月刊  \1,680(税込)  272P


ぼくらの文章教室    ご購入は、こちらから


文章術の本は、定期的に読みたくなってしまうジャンルのひとつだ。今回選んだのは、高橋源一郎氏の文章教室。


上手な文章を書けるようになるためには、まず、自分の好きな文章を見つけることが大切、と高橋氏は言う。


「自分の好きな文章を見つける」なんて、誰でも言いそうなことだが、たとえば……、と高橋氏が見せてくれる文章は、けっして整った文章ではない。


明治から昭和にかけて生きた貧しい農婦、木村センのとつとつとした文章、免疫学者の故多田富雄氏が書いた、支離滅裂になっているのに、編集者が手直ししようとしなかった文章など、ほかの人なら絶対に例題にあげたりしない文章だ。


文章のテクニックではなく、なぜ文章を書くのか、なんのために人に伝えようとするのか、という根源的な問いを突きつけてくる文章読本だった。


高橋氏から突きつけられた問いに、どうやって答えをだそうかと悩んでいるうちに書きそびれてしまいました。
ゴメンなさい……。

次回こそ……


まだまだ、ゴメンなさいすべき本が残っているが、今日はこのくらいで終わりにさせていただく。


次回は、きちんと読んだ本の内容を紹介するからね〜!