平成のビジネス書


副題:「黄金期」の教え


著者:山田 真哉  出版社:中央公論新社  2017年8月刊  \886(税込)  261P


平成のビジネス書 - 「黄金期」の教え (中公新書ラクレ)    ご購入は、こちらから


副題は「『黄金期』の教え」だが、帯に「なぜ栄え、衰えたのか?」というキャッチコピーが大きく書いてある。
そう。本書は平成のビジネス書盛衰記! なのだ。


僕の書評はジャンルを問わず「ココロにしみる」という切り口でお届けしているので気づかなかったのだが、「ビジネス書」というジャンルは、2000年〜2010年頃までよく売れていて「黄金期」といっていい時代だったそうだ。


書籍・雑誌の売上高はご存じの通り、この20年下がり続けている。2016年にはピーク時(1996年)の45%まで下がっていて、出版業界は大変なことになっているのだ。


ところが、「経済」「経営」ジャンルの書籍は、1997年に推定発行部数1,206万部だったのが2002年に1,600万部を突破して、このジャンルだけ右肩上がりになる。勢いは約10年続き、2009年に1,752万冊のピークを迎えたあと下降期に入った。


同じ出版業界なのに、なぜビジネス書は2000年代によく売れたのか。そして、2010年代に失速してしまったのか。


「はじめに」で大きな問いをなげかけ、本書は第I部「書評編」に突入する。


「書評編」に掲載されているのは、山田真哉氏が『会計人コース』(中央経済社)や読売新聞等に連載した書評のうち、「ビジネス書黄金期」に書いた計41冊の書評。


読売新聞の書評は“私語り”の一般的書評スタイルだが、他の媒体は2人の登場人物が1冊の本について語り合う形式だ。


プラトンから『嫌われる勇気』まで連綿と続く対話形式の文章です」と山田氏は紹介しているが、プラトンの対話篇のような重々しさはない。


対話する2人というのが、山田真哉氏の書いた『女子大生会計士の事件簿』シリーズの主人公で、ノリが軽いからだ。


ちょっと2人のかけ合いを見てみよう。

カッキー「久々の『ベストセラー読書室』ですよね」
萌さん「どんなコーナーだったか忘れている読者も多いと思うけど、『ベストセラーになったんだから、きっと読んでおいたほうが何かの役に立つんじゃないの?』って本を取り上げる、たいして深い議論をするわけでもないコーナーよ」
「そう言われてしまうと身も蓋もないですが、たしかに本筋とは違う話で盛り上がる時もあります」
「まあ、普通に書評してもつまんないしね」


ざっくばらんというか、投げやりというか、難しそうな本も軽いノリで紹介していくスタイルだ。


一方、山田氏が自分語りで書いている読売新聞の連載が格調高いかというと、そんなことはない。
だいたい、取り上げる本からして変わっている。


第4章「経済・法律 その他」では、あのおフロ漫画『テルマエ・ロマエ』を取り上げ、主人公ルシウスの「学ぶ姿勢」に注目し、「日本企業は欧米だけでなく開発途上国の企業にも学ぶことが必ずあるはずである」とビジネスに結び付けている。


当時の新刊からお勧め本を選んでいるので、必ずしも名著やベストセラーばかりではないが、対話形式という変わったスタイルが面白く、今でも通用する分析や法則やビジネスヒントを発見して楽しめるのが第I部「書評編」である。



本書から離れるが、僕も2000年代に日経ビジネスオンラインの「超ビジネス書レビュー」というコラムに、他のライターたちと交代で書評を書いていたことがある。


「超ビジネス書レビュー」というのは、普通は「ビジネス書」と見なされないジャンルの本を取り上げ、「オン・ビジネスの視点から読み解き、仕事に役立つ知恵や技術や考え方をご紹介する週刊連載」だった。


ビジネス書じゃない本をビジネスの視点から取り上げる、という方針に則(のっと)り、僕は、こんな(↓)名作小説や、


さぶ (新潮文庫)    僕の書評はこちらから    ご購入は、こちらから


こんな(↓)歴史短編集や、


人類の星の時間 (みすずライブラリー)    僕の書評はこちらから    ご購入は、こちらから


こんな(↓)渋いエッセイを取り上げ、


コルシア書店の仲間たち (文春文庫)    僕の書評はこちらから    ご購入は、こちらから


ビジネスの視点で読み解いた。


山田氏が本書で書いているように、

要はどんな本でもやろうと思えば経済やビジネスのヒントに強引に結び付けることができるのである。それはビジネス書のふところが広いからだ。


ところが、2011年の9月に日経ビジネスオンラインのコラム自体が終了することになり、僕の連載も20回で終わってしまった。
コラムを終了させたのは編集部の判断だったが、ビジネス書の勢いがなくなってきて、「超ビジネス書レビュー」というコラム名では読者に注目してもらえなくなったのだろう。


僕もビジネス書失速の影響を受けた一人になってしまったのだ。


じゃ、なぜビジネス書の黄金期は終わってしまったのか?


第II部「考察編」で山田氏の分析と考察が展開されるのだが、「ここはネタバレさせちゃダメでしょ!」という山田氏の声が聞こえてきたので(笑)、割愛させていただく。


第III部「資料編」には、1990年〜2016年の年間ベストセラー一覧がまとめられている。


「単行本・ビジネス」年間ベスト5と、「新書・ノンフィクション」年間ベスト5の一覧を眺めていると、懐かしい書名や、「えっ、こんな本あったっけ」という本があって感慨深い。


あっ、言い忘れたけど、著者の山田真哉氏は、160万部のベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者である。本書第III部「資料編」でも、「新書・ノンフィクション」部門の2005年第2位にランクインしている。


さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)    僕の書評はこちらから    ご購入は、こちらから


黄金期渦中にいた著者の「『黄金期』の教え」を読んでいて、僕は「栄枯盛衰」について考えこんでしまった。


しかし、山田氏の視線は未来を向いている。
最後に、「あとがき」の一部を引用させていただく。

 ビジネス書を考えることは即ちビジネスを、経済を考えることにつながります。「失われた20年」の後半にブームを迎えたビジネス書に関する考察は、同時代から顕著になり今なお喫緊の課題であるグローバル化格差社会、デフレ経済、人口減少などを克服せんとする試みにおいて、何がしかの参考になるのではないかと思います。


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