副題:部下の文章力を劇的に上げる79のポイント
著者:小田 順子 出版社:日本経済新聞出版社 2015年8月刊 \1,728(税込) 223P
はずかしくない文章を書きたい、文章を上達させたい! という人は多い。
一方で、自分の文章術を知ってもらいたい(ひけらかしたい)という書き手も多い。
だから少し大きい本屋さんには、文章術のコーナーがあり、斎藤美奈子氏が文章術だけをテーマにして『文章読本さん江』を書いた。
僕も文章術の本をたくさんチェックしてきたが、さすがに20冊ちかくなると興味がうすくなり、ここ数年ごぶさたしていた。
久しぶりにこのジャンルに手を出したのは、書名が刺激的だったから。
「その文章、キケンです!」と大きく書いた表紙に、「『伝わらない』文章は時限爆弾と同じだ。」と書いた帯が巻かれている。
そうか。この本を読めば、アブナイ文章を書かなくなるのだな。
「新しい視点で文章上達法を明かしてくれるそうだ」と期待して手にとった。
副題に「部下の文章力を劇的に上げる79のポイント」とある。
うまい!
上司になると部下のつくった書類に責任を持たなければならないが、部下にどんな指導をしたらよいかわからない。
そもそも、自分自身の文章力に自信がない、という人の心にグッとくる。
文章に自信があって「いまさら文章術の本なんか買えない」と思っている中間管理職も、「部下の文章をほっとくと、大変なことが起こりますよ〜」と脅かされると不安がよぎる。
おまけに、若手社員にも「管理職向けの教科書って覗いてみたいなぁ」という好奇心を起こさせる。
表紙だけで8割成功している。
表紙が魅力的な本も、中身が伴わないとがっかりしてしまうが、著者の小田氏は「文章の危機管理コンサルタント」を自称するだけあって、しっかり期待に応えてくれる。
述べ1万件以上の文章指導の実績をふまえ、ついやってしまいがちな失敗例を示したあと、どこが悪いのか、どうすれば改善できるのかをていねいに指導している。
悪文の紹介文がまたいい。
「その文章は笑われている!」
「その文章は不愉快だ!」
「その文章はお客様を失う!」
とだんだん激しくなっていき、とうとう
「その文章は会社をつぶす!」
と脅かす。
こりゃあ、アブナイ文章は放っておくわけにいかない! と読者が真剣になってくるようにできている。
79個もあるポイントの中から、僕も参考になった項目を2つ紹介させてもらう。
ひとつは、「名詞の動詞化をやめる」こと。
名詞に「する」を付けて「動詞化」すると、かたくるしい印象になり、漢字を増やす原因にもなるから、できるかぎり減らすべきなのだ。
小田氏が挙げたのは、次のような事例である。
汚損する ⇒ 汚す
該当する ⇒ 当てはまる
割愛する ⇒ 省く
関与する ⇒ 関わる
記載する ⇒ 書く
言及する ⇒ 言う
減少する ⇒ 減る
購入する ⇒ 買う
遂行する ⇒ 行う
増加する ⇒ 増える
調査する ⇒ 調べる
僕も心がけてきたつもりだが、これからは、もっと気をつけることにしよう。
ただ、小田氏の言いなおしは、まだ漢字が多い。
会社間の文書だとこれが限界かもしれないが、一般向けの本やネット記事では、
「汚す」⇒「よごす」
「省く」⇒「はぶく」
「増える」⇒「ふえる」
のように、もっと漢字を「開く」のが一般的だと思う。
もうひとつは、『は』と『が』の使いわけ。
たとえば、
「4月から、○○サービスは、月額540円(税込み)になります」
「4月から、○○サービスが、月額540円(税込み)になります」
のどちらが良いか、と部下に訊かれたらどう答えたらよいか。
なんとなく『は』と『が』を使っていると答えられない質問だ。
ここで小田氏は、大野晋著『日本語の文法を考える』を引用し、
「が」は未知のものを受け、「は」は既知のものを受ける
という学説があることを示す。
この学説を説明するには、「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」という昔話がちょうどいい。
おじいさんとおばあさんは、どこの誰ともわからない人なので、最初は、「おじいさんとおばあさんが」、と「が」を使う。
この2人が2回目に出てくるときは、「さっき出てきたおじいさんとおばあさん」なので、「おじいさんは山へ芝刈りに」、「おばあさんは川へ洗濯に」と「は」を使っている。
くり返しになるが、未知のものは「が」、既知のものは「は」なのだ。
では、部下の質問に出てきた「○○サービス」はどうなのか。
すでにサービスを利用しているお客様にとっては「既知」だし、利用していないお客様にとっては「未知」だ。
だから、利用者向けの文章であれば「は」、利用者以外も含めてお知らせする場合は「が」を使うべきなのだ。
これだけ根拠を示して「こうすべき」と部下に言えたらカッコイイ!
買って損はない、とオススメしておこう。
さて、本書の31項目め「理解できる文章を書くためのモノサシ」に文章のわかりやすさを判定してくれるツールを3つ紹介している。
自分の文章がどれだけ分かりやすいと判定されるのか試してみたいと思い、ひとつ目の「日本語文章難易度判定システム」(使いたい人は こちら)を使ってみた。
判定したのは、次の3つの書評文。
(1)僕の書評メルマガで最初に書いた青木詠一著『それでもお客様は神様ですか?』
http://archives.mag2.com/0000148203/20050210052000000.html
(2)第300号の浦沢直樹著『PLUTO』
http://archives.mag2.com/0000148203/20080615225315000.html
(3)第586号(前回配信)の御手洗瑞子著『ブータン、これでいいのだ』
http://archives.mag2.com/0000148203/20151025130000000.html
「日本語文章難易度判定システム」の判定結果は……
(1)のリーダビリティ・スコア3.87(文章難易度 中級前半)
(2)のリーダビリティ・スコア2.84(文章難易度 中級後半)
(3)のリーダビリティ・スコア3.56(文章難易度 中級前半)
う〜ん。
最初に書いた文章が一番スコアが高くて、300号で下がって、最近また上がってきた、らしい。
少しずつ読みやすくなっているはずなんだけど……。
参考書評(文章読本の読書ノート)
古賀史健著『20歳の自分に受けさせたい文章講義』
僕の書評はこちら
高橋源一郎著『13日間で「名文」を書けるようになる方法』
僕の書評はこちら
香山リカ著『文章は写経のように書くのがいい』
僕の書評はこちら
宮部修著『文章をダメにする三つの条件』
僕の書評はこちら
樋口裕一著『ホンモノの文章力』
僕の書評はこちら
著者:久恒啓一著『図で考えれば文章がうまくなる』
僕の書評はこちら
ジェラルド・M・ワインバーグ著『ワインバーグの文章読本』
僕の書評はこちら
福島哲史『「書く力」が仕事力を高める!』
僕の書評はこちら
轡田隆史著『うまい!と言われる文章の技術』
僕の書評はこちら