著者:犬山 紙子 出版社:ポプラ社 2015年10月刊 \1,080(税込) 167P
「クソバイス」という聞き慣れない言葉は、著者の犬山氏の造語である。
「クソバイス」とは何か。
犬山氏の定義は、
求めていないのに繰り出される、クソみたいなアドバイスのこと。
というもの。
こちらから相談してもいないのに、よけいなアドバイスをする。
ふつうのアドバイスは相手のためを思って言うものなのに、「クソバイス」は本気で相手のことを心配しているわけではなく、勝手に持論を押しつける。
上から目線で言うので、言うほうはとても気持ちがよいが、言われたほうは、ものすごく気分が悪い。イラッときて、時には殺意さえ覚える。
それが「クソバイス」である。
著者が自身のツイッターやWeb媒体の連載、LINE、マイナビウーマンで募集したところ、400個以上の「クソバイス」ネタが集まった。
著者の連載読者に女性が多いということもあり、投稿者の8割は女性。内容でダントツに多かったのが、モテに関するものだ。
集まった「クソバイス」ネタから厳選した約100個に対し、犬山氏はいっしょにムカついてくれ、いっしょに反撃方法を考えてくれる。
その場で言い返すことができず、あとで悔しい思いをした被害者たちに成りかわり、ガツンと言い返す「クソバイス返し」を考えた。
ムカつくことの多い世の中。
これは面白い!
ゲラゲラ笑っているうちに読み終わり、すっきりすること間違いない。
さてここで、面白いネタの中からいくつか紹介しよう……と思って目次を読み返していたら、困ったことに気付いてしまった。
この本、丸ごと偏見のカタマリではないか!
「面白い!」と思ってお気楽に引用したネタが、読者を傷つけてしまうかもしれない……。
でも、この面白さはお伝えしたいので、先にお断り文を書くことにしよう。
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本書には、一部不快な表現も見られますが、本書成立の背景と著作
の内容とに鑑み、本レビューでの引用は原文のままといたしました
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不快に思われたらゴメンナサイ m(_ _)m
……と先に謝ったところで、面白ネタを紹介しよう。
一つ目は、職場の先輩女性から
「できちゃった結婚でもいいからすればいいのに」
と言われた27歳の独身女性からの投稿。
恋愛相談をしたこともないのに、こちらの状況など何も知らずに言ってくる。
他の人が結婚したときに、「あなた負けてるよ」と言われたこともあるという。
おっさんから言われた場合はセクハラだが、女性から言われた場合はクソバイスの性質が変わる。
犬山氏の見立てでは、このバイザー(クソバイスする人のこと)には、「マウンティング」という明確な目的がある。(「マウンティング」とは、サルがほかのサルの上に乗って上下関係を確認する行為のこと)
あなたは私より下なのよ! ということを確かめるために、こういうひどいことを言ってくる、らしい。
犬山氏は、投稿者以上に怒る。
だからといって許しはせぬ! できちゃった結婚でもいいから、だなんて、できちゃった結婚を下に見ているわ、「既婚が勝ち、未婚が負け」と思い込んでるわ、そのクソ価値観人に押しつけるわで迷惑この上ないですから。
こんな言い方をやめさせるために犬山氏が提案するクソバイス返しは、
哀れんだ表情でフッと笑う。
というもの。
これで反省してくれるかなぁ……。
2つ目は、付き合って欲しいという申し込みを断ったら、相手の男から
もっと現実見たほうが良いんじゃないの?
と言われた28歳の女性からの投稿。
なんだコイツ! と犬山氏もあきれる。
反吐(ヘド)が出そうクソバイスなので、「ヘドバイス」と命名した。
「自分が傷つきたくないから他人を傷つけるって、どんだけ甘やかされて育っとんじゃー!」と怒ったはてに、次のようなクソバイス返しを指南。
現実見てるから断ったんだけど
おおっ、コワ……
以上、2つだけ犬山氏の芸風を紹介させていただいた。
投稿者といっしょに怒り、さらに投稿者以上に怒り、怒りに怒ったエネルギーをたたきつけるクソバイス返しは強烈だ。
たまにカスッてしまうこともあるが、見事に炸裂すると「グワシッ!」と衝撃音が聞こえてくる。
「いやぁ〜、おもしろかった」と読みおわったあと、余韻にひたりながら「おわりに」を読んでいたら、「あれっ? どこかで読んだような……」と一瞬、デジャブ感がよぎった。
内容そのものではなく、作風と言葉づかいが誰かに似ているのだ。
最後の1個はここに書こうと思っておりまして。それがこちら。
とか、
とか、
構造が見えると仕組みは理解できるから、無駄に傷つかなくて済むというか。(中略)
犬山も「あれは私のことを本当に考えて言ってくれたアドバイスだなあ」というのと、「あれはガチクソバイスやな」ってのはもちろん別フォルダに入っております。そしてそれらの違いはかなり明確にわかります。
とか、
もう一つお伝えしたいのが、アドバイスを受ける側の心構えも大切だなということ。
等々。
そう! 自分の考えをきっちり分類して1冊の本を書き上げたはずなのに、まだまだ伝えたいことがほとばしり出る様子が、コミカル系ロジカルシンキングを書いているときの石黒謙吾氏とそっくり。
特に、9月30日号で取りあげた石黒謙吾著『分類脳で地アタマが良くなる』と、芸風も言葉づかいもよく似ているのだ。
石黒氏のファンは、きっと犬山氏の本も大好きになるだろうし、犬山氏のファンは、石黒氏の本にハマルに違いない。
どちらも面白いし、どちらもストレス解消になることを保障する。