ドラッカー流最強の勉強法


著者:中野 明  出版社:祥伝社新書  2010年7月刊  \819(税込)  2285P


ドラッカー流 最強の勉強法(祥伝社新書207) 購入する際は、こちらから


 どうやって自分の能力を高めていけばいいのか、というビジネス本の基本テーマに応える、新刊2冊を今日はとりあげる。


1冊目は中野明著『ドラッカー流最強の勉強法』


いきなり余談だが、おととい、私の本業の勉強のために「Impact 2010」というITセミナーに参加してきた。


「○○力養成講座」シリーズで有名な小宮一慶氏の基調講演がお目当てのひとつだったのだが、小宮氏の講演では、随所にドラッカー箴言を引用していた。


尊敬する会社の先輩から「ドラッカーはいいよ」と勧められて僕も読んだことがあるが、ドラッカーの言う「エグゼクティブ」な人たちにはドラッカーの熱烈なファンが多い。


ダイヤモンド社の「もしドラ」(正式タイトルは『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』)が100万部を突破するような勢いで売れていて、いままでドラッカーを聞いたこともなかった人も名前だけは知るようになってきた。
注目が集まっているドラッカー関連書籍に、つい先週加わったのが本書『ドラッカー流最強の勉強法』である。


ドラッカー」と「勉強本」の組み合わせは、ありそうでなかった。
ドラッカーの著作そのものよりドラッカー自身にスポットをあて、どうやってあの名著の数々を書き上げたのかを掘りさげている。


では、ドラッカー自身の勉強法とはどんなものだったか。


いわゆる「勉強本」はすぐに効果が出ることを唄っている本が多いが、本書は90歳を超えても著作を出版しつづけたドラッカーをお手本にしているので、まず「長距離型勉強」を勧めている。(ちなみにドラッカーは一生涯を通じての勉強を「継続学習」と呼んだ)


ドラッカーといえば、「強みを活かせ」とか「機会を捉えよ」という教えが有名だが、著者の中野氏の指摘では、短期的には正しいこれらの教訓よりたいせつにすべきものがあるという。


それは「自分にとって本当に面白いテーマか」「心から楽しめるテーマか」を考えて仕事や勉強のテーマを選択すべき、ということ。「つまり、強みや機会よりも、まずは価値観を優先せよ、ということである」と中野氏は結論している。


ネタバラシ自粛の僕の書評では、ここから先の中野氏の分析の詳細は割愛させていただくが、「長距離型勉強」、「価値観を優先せよ」が自分に合っているという方は、ぜひ手にとってご覧いただきたい。
ドラッカーの言葉をベースにしながら、中野氏はグーグルカレンダーなどの最新ツールに言及したり、自身の経験と工夫も披露している。


もしドラ」でドラッカー流マネジメントを分かったつもりになる人は多いが、ドラッカー流の勉強法を身につけている人はきっと少ない。
トップ5%とはいわないが、トップ10%になれるかも。


書名:仕事の成果が激変する知的生産ワークアウト
副題:あなたが逆転するための73のメニュー
著者:奥野 宣之  出版社:ダイヤモンド社  2010年5月刊  \1,500(税込)  286P


仕事の成果が激変する 知的生産ワークアウト―あなたが逆転するための73のメニュー    購入する際は、こちらから


さて、2冊目は奥野宣之著『仕事の成果が激変する知的生産ワークアウト』である。


『読書は1冊のノートにまとめなさい』の大ヒットを放った奥野氏が、自分の情報収集、知的アウトプットの方法をまとめた一書。ぜんぶで73の知的トレーニングメニュー(ワークアウト)を載せた結果、ちょっと分厚い285ページの本に仕上がっている。


本書のコンセプトは、

  • ノウハウを知っているだけではぜんぜんダメ
  • 実践すれば、誰でも簡単に知的生産能力を伸ばせる
  • どんなに忙しい人でも、すきま時間を使ってできることを集めた

である。


とかく本を読む人は、読みっぱなしにして実践しないもの。
良いと思ったらすぐに実行してみることが大切。
そのために写真や図で詳しく説明したり、グッズの商品名をいちいち挙げたりして、読者が行動を起こすハードルを下げておくからね〜、という趣向。


またまた余談だが、3年ほど前に日垣隆著『すぐに稼げる文章術』を読んだ。
「すぐに稼げる」というタイトルとはうらはらに、「最低1万時間はやり続けなければならない」と読者を突き放していたのを読んで笑ってしまった。(『すぐに稼げる文章術』書評はこちら 参照)


日垣さんったら人が悪いんだから。


でも、奥野さんはいい人だから、そんなことはない。


PART 1 発想からアウトプットをつくる
PART 2 生きた時間をつくる
PART 3 創造的な環境をつくる


全部で3パートに分けて、ていねいに奥野流のノウハウを教えてくれる。


ネタバラシ自粛の僕の書評だが、73個もあるので、ちょっとだけ内容紹介させてもらうことにする。


まず To Do 23の「新聞一面の600字コラムを毎日書き写せ」


体力づくりのためにジョギングをするように、毎日少しの量でよいから文章を書き写すこと。朝日新聞なら「天声人語」、読売新聞なら「編集手帳」だが、奥野氏は政治色の薄い日経の「春秋」を勧める。
他の新聞は政治色が強く、自分の考えと合わない主張が登場することもあるからだ。日経なら「経済に関係のないことは言わない」というスタンスが感じられるので、イライラしてしまうことも少ない、とのこと。


僕も、読みおわった本の気になった文章をパソコンに入力しているので、文章訓練になっているのかもしれない。


ただし、奥野氏はタイプするのではなく、あくまで手書きで書き写すことを勧めている。
To Do 23 には手書きを勧める理由までは書いていないので、同じことを勧めている福田和也著『文章教室』から手書きの効能を引用する。

  パソコンで写すというのも、やらないよりはマシですが、ブラインド・
  タッチで加速をつけて書くと、「文章」ではなくただの「情報」になっ
  てしまうことがままあるのです。
   注意深く読むには、書き写すのが一番いい。


つづいてパソコンで書くときのソフトウェアについて。To Do 28 で奥野氏は「書くときはWORDではなく「オズエディタ2」を使え」と言っている。


テキストエディタを使うことのメリットは、

  • 表示されるまでの待ち時間がない
  • スクロールが早い
  • 入力をはじめ、挿入、コピー・アンド・ペーストなどの作業も快適
  • バックアップをこまめにとることができる

などを挙げている。


テキストエディタのなかでも「オズエディタ2」を勧める理由も書いているが、僕は「秀丸」利用者なので(笑)、理由は省略させていただく。


もうひとつ、To Do 50 を引用する。「アナログ整理を基本にして、デジタルはサブとして使え」だ。


さすが、手書きノートの活用術を大ヒットさせた奥野さん。僕は書籍データはすべてデジタルデータにしているので、いまさらアナログ整理に戻れないのだが、「ペンや糊、ハサミを持って手で作業することで、頭の中が整理される」という効用には納得する。


あっ、もうひとつ。
To Do 62「本棚に「廃棄待ちスペース」を作って定期的に本を捨てろ」


本が増えて続けて困っている人には、理由は言うまでないだろう。つい先週、思い切って本を捨てるのにたいへんなエネルギーを使ったばかりなので、ものすごく納得。


他にも気づきがたくさんある。
さすがベストセラー作家の知的生産技術だ。