怒れるおっさん会議inひみつ基地


著者:田尾和俊×勝谷誠彦  出版社:西日本出版社  2013年6月刊  \1,470(税込)  326P


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讃岐うどん巡りブームの仕掛け人として知られる田尾和俊氏と、日本テレビ朝の情報番組「スッキリ!!」にレギュラーコメンテーターとして出演している勝谷誠彦氏の対談本である。


僕は勝谷氏の本を読んだことはないが、田尾氏のほうは7年来のファンで、この本の発売前から注目していた。


個人的に、待望の一書である。
こうしてレビューできることが、嬉しくて嬉しくてしかたない。


今年読んだ本の中では、沢木耕太郎著『キャパの十字架』の次に思い入れがある。
本書の内容に触れる前に、田尾和俊とはどんな人物か、どれほど面白い人なのかを紹介させていただく。


田尾和俊(たお・かずとし)氏は、1956年、香川県に生まれた。大学卒業後、地元の広告代理店に入社し、入社6年目の1982年、『タウン情報かがわ』創刊と同時に編集長に就任した。


タウン情報誌に載せるおもしろいネタを探すなか、1989年から、「ゲリラうどん通ごっこ」という、讃岐うどんの穴場を探訪する記事の連載を開始し、これが讃岐うどん巡りブームのきっかけになった。


1995年にタウン誌編集長から同誌出版社社長に就任したが、本書にも書いてある諸々の事情により2002年に退社し、2003年より四国学院大学で教授を務めている。


教授のかたわら、なぜか吉本興業にも所属しており、自ら結成した「麺通団」の団長として、先頭に立って讃岐うどんと遊んでいる。


僕が田尾氏のことを知り、すぐにファンになったのは、FM香川の「うどラヂ!」というラジオ番組のポッドキャスティングだ。
「うどラヂ!」は2006年8月公開の映画『UDON』の公開3ヵ月前から放送開始し、映画公開まで17回放送された1回15分のラジオ番組である。


麺通団」の団長である田尾氏と麺通団員2人が香川県のうどん店について話をしているのだが、まじめにお店の紹介をするわけではない。


最初から最後までおふざけモードのバカ話ばかり。
うどん店の店主を毎回ゲストに呼んでいるのに、「あとでたっぷりお話をしてもらいます」と引っぱりつづけ、そのまま「もう残り時間がなくなったので、ゲストのお話は次回に!」と終わってしまう。


ふつうのゲストなら怒りだしてしまいそうなものだが、どの店主も田尾氏と信頼関係があるらしく、「ちょっと、ちょっと」とツッコミを入れるだけで笑って許している。


映画『UDON』公開と同時に終わってしまい、残念に思っていたら、すぐに10月から「続・麺通団のうどラヂ!」として再開した。


香川県には仕事で2回しか行ったことがないし、讃岐うどんに特別な興味もなかった僕だが、団長のバカ話にハマッてしまった。


麺通団は、2006年後半の僕のマイブームになった!


ファンとして、田尾氏の書いたものを探し集め、まず、2006年8月に発売された『超麺通団3 麺通団のさぬきうどんのめぐり方』を買い、「うどラヂ!」に登場するうどん店の写真や紹介を楽しんだ。(『超麺通団3』の書評は⇒こちら


続いて、田尾氏が教授を務める四国学院大学カルチュラル・マネジメント学科の学生たちが作った『インタレスト』というフリーペーパーを取り寄せ、読書ノートにレビューを書いた。(『インタレスト』のレビューは⇒こちら


「団長日記」という田尾氏のブログにも笑い転げた。(「団長日記」は⇒こちら


その後、僕が出版した書評集『泣いて 笑って ホッとして…』にもコラムで取り上げたし、今もつづいている「続・麺通団のうどラヂ!」のポッドキャスティングを毎週楽しみに聞いている。

今週も、第359回放送「団長のどうでもええ話&お便りたくさん読みます」
を放送から1週間遅れでポッドキャスティングで聞いたところである。
(「続・麺通団のうどラヂ!」のバックナンバーは⇒こちら)
 


僕の中では、「まだ全国区になっていないスゴ腕のコメディアン」という位置づけの田尾氏だが、この『怒れるおっさん会議』では、天下国家を語り、徹底的に行政機関にダメ出しをしている。なんと政治談義の本だった。


対談を開始してすぐに、2010年にやっていた瀬戸内国際芸術祭をやり玉にあげる。
このイベントのなりゆきを見ることで、「この国の一番ダメなところがよくわかる」と田尾氏は言う。


瀬戸内国際芸術祭というのは、瀬戸内海に浮かぶ7つの島を巡って、各島に展示されたアート作品を見て回る催しだった。


はじめは達成目標が掲げられていなかったが、開幕直前に「30万人集客目標」という数字が突然発表された。開幕してみると「初日7万人」、「目標を49日目で達成」などと報道され、最終的に目標の3倍の93万人が来場したことになっている。


ところが、田尾氏に言わせると、カウントのしかたがおかしい。
7つの島と高松港の8つの会場で、それぞれ来場者をカウントして合計しているが、同じ人が複数の会場をまわったらダブルカウントになる。


おまけに、一つの会場の来場者数は、会場内の複数の作品前でカウントした人数の合計になっている。一つの島に3つも4つも作品があるのに一つだけ見て帰る人はいないから、これもダブルカウント。


1人平均3つの島を回ったというアンケート結果と、それぞれの島に作品がいくつ展示されたかという数字を元に田尾氏が試算すると、93万人ではなく約10万人という結果が出た。


さらに、芸術祭がなくても来ている毎年の観光客数を引き、島に住んでいる人の数も引いたら、芸術祭効果は3万人〜5万人という数字になった。


税金を使ってイベントをやる以上は、使った税金以上に県民が豊かになるようにするのが行政の仕事。ならば、いくら税金を使って、どのようなリターンがあったか、きちんと公表するのが当たりまえ! と2人のおっさんは気焔を上げる。



こりゃあ、政治談義が好きな人にはたまらないだろうけど、好き嫌いが別れる本だなぁ……。
と一瞬思ったが、サービス精神旺盛な田尾氏のこと。単なるオレ様政治論にはなっていないことがすぐに分かった。


タイトルに「inひみつ基地」と付いているとおり、2人の対談は軽井沢の勝谷邸で行われた。


編集者のほかに、東京麺通団パロマスという料理人も参加しており、対談が一区切りつくと、半露天風呂に入り、パロマスの絶品料理に舌鼓をうつ。


対談が再開され、ひとしきり話が続いたあと、またパロマスの作った夜食を食べる。


うまいうまい、と食べる田尾氏に向かって勝谷氏が
  「田尾さんどうですか、こういう人生」
と尋ねると、田尾氏が答える。
  「もういつ死んでもええ感じ(笑)」


学生時代の部活かゼミの合宿のような、ワクワクした雰囲気が伝わってくる、料理人同伴の泊まり込み対談なのだ。


話の口調も、舌鋒するどく国や自治体への批判を展開したかと思うと、半分冗談で勝谷氏が田尾氏に知事選出馬をけしかけ、次のように互いにギャグを飛ばしたりもする。


勝谷「田尾さん、もう知事をやらなあかんで。お母さんがいいって言ったらいい?」
田尾「ダメです。母ちゃんの遺言は守らないかん。まだ生きてるけど」
(中略)
勝谷「あのね、田尾さん。だけど、もうお互い失うものないやん(笑)」
田尾「勝谷さんはないだろうけど、僕は失うもんがある(笑)」


2人のサービス精神は、巻末に歌手の岩崎弘美との鼎談を12ページもカラーで収録するところまで行きつく。
おっさん会議のはずなのに、マドンナまで交えているのである。


これが吉と出るか凶と出るか。


「うどラヂ!」ポッドキャスティング第359回放送で、田尾団長と団員ごんは、この件を次のように語っている。

田尾「あれはね。売り上げ落としたね」


ごん「なんで」


田尾「テイストが分散したんや。お堅いまじめなお怒りモードで行くのか、楽しく青春のいろんなものをみんなで語り合うのか、2つの間っぽい感じに見えてしまった。中身は、完全に真面目バージョンなんやけど。表紙とか後ろとかにまどわされて……」


ごん「帯とかね」


田尾「そうそう。帯とかにまどわされて、なんだこれは軟派な本か、と思われている方は……」


ごん「宮脇書店さんなんかでも、ビジネス書とかハードカバーのところに平積みして置いてあって、僕、『恥ずかしい!』と思いながら見ているんですよ」


田尾「内容はいいのにね。帯がね〜。軟派っぽいよね。……という、出版社の戦略に対するごんからの批判が出たところで」(後略)


いやいや、田尾氏は弁解がましいことを言っているが、この本は間違いなく「2つの間っぽい」内容で、だからこそおっさんの政治談義にも耳を傾けることができるのだ。


おもろい話と、まじめな話の両方とも好きな方にオススメの一冊である。