本質眼


副題:楽天イーグルス、黒字化への軌跡
著者:島田 亨  出版社:アメーバブックス  2006年7月刊  \1,575(税込)  265P


本質眼ー楽天イーグルス、黒字化への軌跡


一昨年、日本のプロ野球界はパ・リーグの再編問題で大騒ぎになり、最終的に楽天が新規参入して東北楽天イーグルスがスタートすることになりました。
弱い選手しか集められず、きっと経営的にも大赤字と予想された楽天球団でしたが、意外にも2005年度の決算で黒字を計上し、ニュースでも大きくとりあげられました。
本書は、この楽天球団の社長が、1シーズンを終えた時点の球団経営について述べ、自身の経営者としての経歴、経営哲学を示した一書です。


日本のプロ野球界は、親会社の企業名浸透のために存在しているようなもので、たとえ赤字になっても、経営の安定している親会社が文句をいうことはありませんでした。
しかし、新規参入した楽天は、球団独自でも経営が成り立つようなビジネスを指向しています。
そのために、地元住民にファンになってもらう活動を繰り広げ、実績もあげました。
しかも、ファンサービスのために工夫した内容を隠そうとせず、他の球団も良いアイデアがあったらお互いに真似しあっていきましょう、と呼びかけています。
というのも、プロ野球の「フランチャイズ制度」は、地域ごとに1球団という制度なので、同じ顧客を奪い合うという可能性が少ないからです。楽天イーグルスのファンクラブに入ろうという人は、やはり東北の人が多いのです。


ちょっとだけ野球ファンの私が興味深かったのは、初代監督の田尾氏の解任理由と、2代目監督の野村氏に対する著者の評価です。


1年目を終えた田尾監督が提出したレポートには、なぜ負けたかということは書いてあったけれども、そこからどう動けばいいのか、どうしたら勝てるのかという方向性が見えてこなかった、とのことです。
球団のフロントとして、経営者として、どれくらい投資をすべきか、どれくらいの期間待てばいいのか、具体的な戦略をイメージできなかったのが、解任の理由です。


一方、2代目の野村監督に対しては、
  いろいろな方からいろいろとご意見はいただきます。しかし、一部の新聞
  や週刊誌に書かれるようなイメージの、あんな偏屈な人ではありません。
と微妙な言い方をしています。


私はノムさんのファンなのですが、その私でも野村監督の“ぼやき”は、何とかならないものかと感じます。
著者のこんな言いまわしも、きっと最大限の弁護なのでしょう。


野球に関する内容ばかり紹介しましたが、実は本書の半分以上を占めるのは、著者の経営者としての生い立ちと経営哲学についての記述です。
現USENの宇野社長とインテリジェンスを創業し、発展させていった過程やその果てにたどり着いた経営者としての境地は、傾聴の価値があります。
特に、競争の激しいベンチャービジネス界で戦いきった著者が、人間不信から脱したこと、「他人」というものに対する概念がいつの間にか大きく変わったことは、人間性回復のドラマそのものです。


野球ファンにお薦め、経営者の成功話が好きな人にお薦め、もひとつヒューマンドラマが好きな人にお薦めです。