著者:岡康道、小田嶋隆 出版社:講談社 2012年6月刊 \1,470(税込) 239P
もう1冊は、CM界の風雲男(と帯に書いてある)岡康道氏と、この読書ノートでも1ヵ月前に取りあげた人気コラムニスト小田嶋隆氏の対談で、タイトルは『いつだって僕たちは途上にいる』である。
日経ビジネスオンラインの連載対談「人生の諸問題」をまとめた第3弾だ。
小田嶋氏がいかに人気のあるコラムニストであるかは、先月の読書ノート( → こちら )をご覧いただくとして、岡氏の仕事ぶりを簡単に紹介する。
岡康道氏は1980年に電通に入社。
CMプランナーとしてサントリー「BOSS」、「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。
1999年に独立し、現在はクリエイティブ・ディレクターとしてCM制作に関わっている。
主なクライアントに、キリンビール、富士通、大和証券、富士ゼロックス、JR九州、中部電力、シチズン、大和ハウス、NTTDoCoMoなどがある。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。
日経ビジネスオンライン編集部は、時代の空気を感じ取っている2人に、メディアの変遷について、それに伴うコミュニケーションの変化について語ってもらう意図で対談を企画した、とのこと。
2人が同じ高校(都立小石川高校)の同級生ということもあり、和気あいあいと対談を進めてくれる、と期待したのだ。
しかし、編集部の意図は外れた。
高校で3年間同じクラスで、部活も同じ陸上部に所属していた2人だ。マージャンもよく打った、という間がらの岡氏と小田嶋氏は、何かといえばすぐ高校時代の思い出話に脱線してしまう。
連載のタイトル通り「人生の諸問題」について、ああでもないこうでもないと語り合い、ナビゲーターの清野由美氏から「あなたたち、いいかげんにしなさいっ!」と活を入れられても、またまた、しょうもない会話に戻ってしまう。
青くさい考えを持っていたころを懐かしむ、いまだに青くさいオジサンの対談になってしまっているのだ。
とはいえ、2人とも、もう50代半ばなのだから、さすがに高校生の頃とはちがって人生の酸いも甘いも経験してきている。
例として、岡氏の発言をひとつ引用させていただこう。
仕事でご一緒したリリー・フランキーさんの言った言葉が、僕にも響いちゃってさ。サッポロビールのテレビCFで「大人エレベーター」というのをやっていて、妻夫木聡君が人生の先輩に「歳を取るってどういうことですか」と聞くシリーズなんだけど、リリー・フランキーさんは「どんどん失っていくこと。喪失感がどんどんたまってきて、これからどんどんつらくなってくるぞ」と答えていたね(笑)。
このあと、喪失感の具体例として、親の死、体力減退、記憶力減退物欲減退をあげ、「欲がなくなるということは、死への準備を始めているということだ」と、哲学的になっていく。
しかし、話題が深みにはまるのはごく一部で、対談の大部分は、高校時代からの悪友が、お互いに好きなことを言いまくりながら進んでいく。
あまり気楽に話しすぎて、相手を怒らせる場面も登場する。
岡氏の肩書きについての、次のような会話は、当事者が怒っているのに、読んでいるこっちが笑ってしまった。
新聞のコラムに間違った肩書きを書かれた岡氏が、新聞記者って、結構いい加減なんだなあ、という感想を伝えたあと、
「僕、プロデューサーじゃないんだよ。(中略)俺、クリエイティブ・ディレクターという肩書きなんだよ」
と言うと、小田島氏は「そうなの?」と反応した。
ナビゲーターの清野由美氏も「そうなんですか?」と意外な反応を示したとき、岡氏がキレた。
「ふざけるなよ。ここにいる誰も僕の仕事を理解してないじゃないか(怒)。みんなとは結構長い付き合いなのに」
なんとも楽屋ばなし的な会話が延々と続くのだが、本人たちが映画や書籍について持論を展開しているバカ話が、なんの役にも立たなさそうで、なんとも心地よい。
1冊目の『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』にも共通するが、こんなグダグダ話が書籍になって、しかも、僕みたいに読んで楽しむ人がいる、というのが不思議だ。
お笑い芸人が下らないことを言って視聴率をかせぐように、一見くだらない話をしていても、きちんとエンターテインメントになっている。
もの書きのはしくれとして、ものすごくうらやましい。
目指せ、エンターテインメント書評!
というわけで、僕にとっては大いに楽しめて、少しだけ教訓を得ることもできた。息抜き読書としては、2冊とも満足できる作品だった。
しかし、お笑い芸人に好き嫌いがあるように、エンターテインメント作品は人によって好き嫌いの幅が大きい。
購入するときは、くれぐれも自己責任で(笑)。