著者:岡康道×小田嶋隆 出版社:講談社 2010年8月刊 \1,500(税込) 221P
本書の「まえがき」に、『ガラパゴスでいいじゃない』という人目を引くタイトルについて次のような解説が載っている。
日本のビジネス界では、今、「ガラパゴス化現象」が話題になっている。
高い技術力を誇る日本の製品やサービスは、日本独特のニーズに合わて独自の発達をとげてきた。しかし、ケイタイ電話に代表されるように、世界標準とかけ離れてしまった製品は世界市場では認められない。
日本が国際的な競争力を持っていないという状況は、「ガラパゴス化現象」と呼ばれている。
日本の将来にかかわるこの大問題に対し、本書の対談者2人が出した答えは、「ガラパゴスでいいじゃない」だった。
政治家でも経済評論家でもない2人だが、これは目からウロコのすばらしい意見ではないのか。いやいや、周りを油断させておいて、自分たちはちゃっかりガラパゴスを抜け出しているかもしれない。
まずは2人の意見を聞いてみてはどうだろう。
――長い要約になってしまったが、以上が本書のねらいである。
読者の興味を引きつけるすばらしい「まえがき」だ。
しかし、せっかくの期待を台なしにするようで申しわけないが、本書はそんなにたいそうな内容の評論集ではない。
いっちゃあ悪いが、中年おじさん2人の放談集である。
日本の将来について新たな知見が披露されることはなく、ビジネスのヒントを与えてくれることもない。ただただ50台前半のおじさん2人が、高校時代からひきずっている女々しさや劣等感を披露しあっている。
だから、「対談集」というより「放談集」がふさわしい。
ただし、この2人、新橋でクダ巻いてるただのおじさんではない。
ひとりは、CMプランナー&クリエイティブ・ディレクターとして、「BOSS」、「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など広告界で数々のキャンペーンをヒットさせてきた岡康道氏。
もう一人は、「独自の視点と他の追随を許さぬ知識、知見をもとにした文章が、鋭敏な読者から絶大な支持を集めている」と本書ナビゲーターの清野由美氏も絶賛する文章の達人、小田嶋隆氏である。
この2人が広告や文章について持論やノウハウを展開すれば、ものすごく有益な本ができあがるはずなのだ。
しかし、この2人、この本では自分たちの得意分野の話題に近づこうともしない。同じ高校で同級生だったという付き合いの長さを反映し、自分のカッコ悪い部分を暴露したり、ツンツンつつき合ったりする。
たとえば、小田嶋氏が「女を口説いたことは一度もありません」と言い切ると、岡氏も「そういう意味では口説いたことなんかないよ、俺も」と返した。
つづけて岡氏は、
「僕はナンパもしたことって、ないですね。恥ずかしくてできないよ、知らない人に声を掛けるなんて。(中略)くにかく傷つきたくなくて。だから口説けないし、むしろ言いだしてくれるのを待っている、みたいなことだよね」
と、とても売れっ子CM作者とは思えないことをポロポロと告白する。
そうとう気心が知れているらしく、ときには、小田嶋氏が
と揶揄すると、岡氏は
「確かに最悪だな。それでいうと、小田嶋はシニカルなドラえもんみたいな感じだよね」
と打ちかえしたりしている。
おじさん2人が暴走しそうになるところをうまくリードしている清野由美氏の相の手もすごい。
新しい章のはじめからグダグタになった時は、
「今日は時間も押してきましたので、この辺でお開き、ということにしたいと思います」
と話題の転換を迫るし、同じテーマのトークが長くなると、
「みなさん、語りが尽きないようで」
と打ち切りを宣言したりする。
ときには、気の抜けた発言を、「簡にして単なコメントですね」とバッサリ切り捨てたりもする。
こういう猛獣つかいがいるからこそ、一筋縄で言うことをきかない2人の対談が、きちんと読めるものに仕上がっていくことがわかる。
「放談」のように見えて、感心する内容があちこちに散りばめられている。
同世代の中年男性にはもちろん、オジサマをうまくコントロールしておきたい女性にもオススメしたい本である。