清須会議


著者:三谷 幸喜  出版社:幻冬舎  2012年6月刊  \1,470(税込)  272P


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脚本家三谷幸喜氏の「満を持しての、書き下ろし」作品である。


本能寺の変で信長が死んだあと、明智光秀も早々に敗退して死んでしまった。
信長亡きあと、これからどうするのかを話し合う会議が、尾張の清須城で開催されることになる。


織田家の後継者をどうするのか、どのような体制でを盛りたてていくのか、領主がいなくなった領地をどう配分しなおすのか。
信長の後継者と目される2人の家臣、柴田勝家羽柴秀吉が、それぞれの思惑を胸に清須にやってくる。


天下の行く末を決定した5日間の虚々実々のかけひきを登場人物が現代語で語る、頭脳戦再現ドラマのはじまりはじまり〜〜。


「熱いな。だいぶ熱くなってきた」


物語は、燃えさかる本能寺本堂での織田信長の“現代語訳”モノローグからはじまる。


謀反をおこした明智光秀に対し、それほど腹は立てていない、と達観する信長だが、自分が死んだ後のことは気にかかる。
嫡男の信忠(のぶただ)がいる限り、織田家は安泰だ。だが、もし信忠も明智光秀に殺されてしまったら、かなりやっかいなことになる。


次男の信雄(のぶかつ)は「はっきり言って馬鹿」だし、三男の信孝(のぶたか)は「まだましだが、器が小さい」。どちらにしても、織田家の先行きは暗い、と心配しながら信長は腹を切った。


嫡男の信忠は明智に殺されてしまい、織田家の先行きを決める清須会議では、次男の信雄、三男の信孝の後継者争いが注目の的となった。
「まだまし」な三男の信孝を推挙するのは、家臣の長老である柴田勝家。かたや一介の草履取りからのし上がってきた羽柴秀吉は、「はっきり言って馬鹿」な次男の信雄を擁立しようとする。いずれ天下を狙うためには、御しやすい主君のほうが都合が良いからだ。


激突する2人を、織田家宿老の丹波長秀、信長の妹お市の方、信長の弟である織田信包など、それぞれの思惑をもつ関係者が応援する。


5日間の会議で、どのような駆け引きがなされ、どのように情勢が変わっていったのか。
「はっきり言って馬鹿」な信雄を見限った秀吉が打った、起死回生の一手とは……。



表紙絵を見ると、柴田勝家の横に折りたたまれた新聞が置いてあり、秀吉がスマホで誰かに電話している場面が描かれているが、本書の中に新聞やケイタイ電話は登場しない。登場人物「現代語訳」で心境を語ることを象徴しているだけなので、お間違えなく。


そりゃ、ケイタイで連絡しあったり、ツイッターで「清須ナウ」なんてつぶやけば、分かりやすいお笑いになるに違いないが、本書の登場人物たちは意外にも何のギャグも飛ばさない。小説としては、ハラハラさせる心理戦のみで成り立っている。


このあとどうなるのか、とページをめくる手が止まらない本に、久しぶりに出会った。
めったに僕の本棚に手を伸ばさないカミさんも、この本は1日で読み切ってしまったそうだ。
本書は清須会議が開かれた天正10年(1582年)6月27日の430年後に上梓された。僕が買った5刷は7月31日に発行されており、映画化決定が背中をおして、これからベストセラーになりそうな勢いである。


心理戦って、おもしろい!