聞く力


副題:心をひらく35のヒント
著者:阿川 佐和子  出版社:文春新書  2012年1月刊  \840(税込)  253P


聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))    ご購入は、こちらから


2月はじめに名古屋へ出張した。
車中で読む本をたくさん持っていったのに、品川駅構内の三省堂書店で出たばかりの本書『聞く力』が目について購入。すぐに読みはじめた。


おもしろかった。


読みおわったあとレビューを書きそびれているうちに、20万部を突破するベストセラーになってしまった。
もう、お読みになった方もおられると思うが、遅ればせながら紹介させていただく。




「正直に申し上げて、本書を刊行してよいものかどうか、この期に及んでまだ迷っております」と「まえがき」に書いてあるが、もちろんこれは謙遜である。ご存じのように、著者の阿川氏はインタビューの名手なのだから。


週刊文春の「この人に会いたい」という対談は、1993年5月から19年も続いているし、昨年10月からテレビでも「サワコの朝」というインタビュー番組がはじまった。


インタビュー番組というと、すぐ「徹子の部屋」が思い浮かぶのだが、個人的感想を言わせてもらうと、徹子の部屋に出てくるゲストは、どうもリラックスしていないように感じる。


黒柳氏と番組スタッフが下調べしたメモがテーブル手前に並べてあるので、ゲストとの会話はメモの内容をなぞったものになってしまう。いいところを発揮できずに撃沈してしまったお笑い芸人が集まり、「アメトーーク」という番組で「徹子の部屋芸人」と自嘲しているほどだ。


阿川氏はちがう。
週刊誌の対談ではどうか分からないが、少なくともテレビの「サワコの朝」を見るかぎり、メモも持たず、まったくの手ぶらである。最初と最後にゲストの好きな曲を訊ねる、という決まりごとがあるが、それ以外は、ゲストにあわせて縦横に話題が変わり、会話がはずんでいく。


脚本家の三谷幸喜がゲスト出演した回では、三谷氏の演出で阿川氏がワンシーンだけ演技していたし、歌手の平原綾香の回では、ゲストのナマ歌を聴きながら涙をポロポロ流していた。


もうすぐ58歳だというのに、阿川氏には、かわいい! と思わせる愛嬌があるのだ。


天性のインタビュアーといえる阿川氏だが、ずっとインタビューに苦手意識を持っていたそうだ。


だからこそ、どうやったら相手からおもしろい話を引き出すか、工夫にくふうを重ねてきた。本書には、その工夫の内容が詳しく述べられているし、謙遜しながらもインタビューに成功した事例がいくつも登場する。
インタビューのノウハウを身につけたい、という人は滅多にいないと思うが、初対面の相手との話を盛りあげたいときには、参考になるに違いない。


ここで、阿川氏があげる会話のツボの実例をいくつか紹介しようと思ったが、読み返してみると、「これがベスト3!」と絞りきれなかった。
代わりに、35も挙げられているヒントの項目と、それぞれのヒントに登場するインタビュー相手を一部だけ列挙させていただく。


以上の名前を挙げた有名人のほか、ニュース番組のレポーターをしていたころは、一般人へのインタビューもたくさん経験している。


世の中にインタビュアーはたくさんいるが、雑誌とテレビの両方でこれだけの実績を持っている人は阿川氏の他にいないだろう。


黒柳徹子のギネス記録を破るのはこの人しかいない! と僕は思う。

参考レビュー


ピーコ × 阿川 佐和子対談『ピーコとサワコ』 …… 2005年2月の晴読雨読日記