プーチン最後の聖戦


副題:ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?
著者:北野 幸伯  出版社:集英社インターナショナル  2012年4月刊  \1,680(税込)  345P


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著者の北野氏は1970年生まれ。
ゴルバチョフにあこがれてソ連に留学したのだが、留学先がちょっと変わっていて、「卒業生の半分は外交官に、半分はKGBに」というエリート大学だった。


卒業後もソ連に残った北野氏は、かつての帝国の崩壊を目の前で体験し、エリツィンプーチン大統領によるロシア政治を現地で観察してきた。


北野氏が大学で教わり、その後の世界の出来事で実感したのが、
  「外交の目的は国益の追求である」
  「国益とは金儲けと安全の確保である」
ということである。


本書は、著者の培った世界観・歴史観を基にして、分りやすく国際情勢を分析し、今後日本の取るべき道を示す4冊目の提言書である。



2005年に『ボロボロになった覇権国家アメリカ)』を出版して以来、北野氏は一貫してアメリカの没落を予測してきた。4冊目の本書では、ロシアのプーチン大統領に注目している。


まず、本書の構成を簡単に紹介しておこう。


第1章でプーチンが大統領に上りつめるまでのスピード出世の秘密を明かし、ガタガタだったロシア経済を立てなおした実績を振り返る。


第2章でプーチンアメリカとの間に繰り広げられた政治的闘争の意味を解説したあと、第3章ではメドべージェフが大統領になったあとアメリカへ接近して揺りもどしたことを振り返る。


最後の第4章には「最終決戦」という標題が付けられ、この3月に大統領選挙に勝利したプーチンが今後どのような行動にでるかを予測している。


本書を読み終えて気付いたのは、ふだんニュースを見る目がほとんど国内に向いていて、海外の動向に注目していなかった、ということだ。
昨年の3.11の震災のあとは、特にそうだ。


海外のニュースや国際情勢が遠く感じられたのは、ふだんの生活への影響の大きさが見えずらい、という理由もあるが、ニュースの中に人間のドラマが感じられないことも原因のひとつかもしれない。


北野氏が解説してくれるロシア情勢やアメリカとの諜報戦の話題は、ほとんどが初めて聞く内容ばかり。それでも本書を興味深く読めたのは、分かりやすく伝えようという北野氏の工夫のおかげである。


たとえば、大統領に就任したプーチンが、新興財閥を掌握するために社長を解任する場面。
プーチンの迫力を伝えるため、北野氏は意図的に“文化的じゃない”文体を使い、次のように会見の様子を伝える。

プーチンは開口一番、
「おまえには、辞めてもらうからな」
社長と三人の取締役は、頭の中が真っ白になります。プーチンは続けます。
「質問あるか?」
あまりの急展開にだまってしまった彼らに、プーチンは、
「おい、はっきりしねえか!」
かつて「もう一つの国の皇帝」とよばれたヴャヒレフも、KGBの皇帝にはかないません。
しぶしぶ「質問はありません」と辞職に同意したのです。


たしかに、こわもてのプーチンに言われたら、どんなに丁寧な物言いも、「おい、こら!」と言われているように感じるかもしれない。


北野氏が教えてくれるプーチンの実績を知ればしるほど、プーチンというのは運に恵まれ改革にも成功した大した指導者だ、と思えてくる。
何しろ、プーチンが大統領に就任する前、エリツィン時代のロシアのGDPは、毎年マイナス成長だった。経済規模がどんどん縮小していたのだ。


プーチンが大統領に就任した2000年には、原油が高騰するという幸運が重なったり、ルーブル安で輸出が増えたりしたおかげでGDP成長率がプラス10パーセントに達した。
その後、土地の私有と売買を自由化したり、税制改革や所得税減税を行うという経済改革を実行した結果、税収も支持率も上がった、という。(減税したら税収が上がるのはあり得ないことのように聞こえるが、北野氏はあり得ないことが起こった理由を分かりやすく解説してくれる)


国内の支持基盤を固めたプーチンは、アメリカの一極支配体制を崩そうと、中国やBRICS諸国と連携して多極世界を作りあげた。
ただし、「多極」とはいっても、アメリカ以外の国家のなかでは中国の影響力は並はずれて大きく、北野氏は「米中二極時代」が世界の現実と指摘している。


世界のトップ争い=覇権争いは、行きつくところまで行く。
だからアメリカと中国が覇権をかけて争う可能性が高い。


この米中二極時代=米中衝突時代を目前にして、プーチンが次に打つ一手は何か。


この問いの答えは、本書の第4章をお読みいただきたい。

参考レビュー


北野幸伯著『ボロボロになった覇権国家アメリカ)』  → こちら


北野幸伯著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』  → こちら


北野幸伯著『隷属国家日本の岐路』  → こちら