隷属国家日本の岐路


副題:今度は中国の天領になるのか?
著者:北野 幸伯  出版社:ダイヤモンド社  2008年9月刊  \1,575(税込)  270P


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1970年生まれの北野氏は、ゴルバチョフにあこがれてソ連に留学しました。留学先がちょっと変わっていて、「卒業生の半分は外交官に、半分はKGBに」というエリート大学です。
卒業後もソ連に残った北野氏は、かつての帝国の崩壊を目の前で体験し、エリツィンプーチン大統領によるロシア政治を現地で観察してきました。


北野氏が大学で教わり、その後の世界の出来事で実感したのが、
  「外交の目的は国益の追求である」
  「国益とは金儲けと安全の確保である」
ということです。


著者の培った世界観・歴史観を基にして、分りやすく国際情勢を分析した本が既に2冊出ています。
1冊目の『ボロボロになった覇権国家アメリカ)』でも、2冊目の『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』でも、北野氏は一貫してアメリカの没落を予言し、その日のために日本が準備すべきことを教えてくれました。


最近のニュースでご存じの通り、リーマン・ブラザーズが破綻し、AIGに9兆円という気の遠くなりそうな緊急融資が発表され、北野氏の予言がいよいよ現実化してきました。このタイミングで発刊された3冊目の本書には、いったい何が書いてあるのでしょうか。


本書のテーマを北野氏は「日本が自立するための本」と定義しました。


「自立」というと、すぐ軍事的自立(=憲法改正)を連想してしまいますが、北野氏は経済・食料・エネルギー・教育などの多くの視点からトータルに考えることを提案しています。


まず経済についての北野氏の考えでは、日本がアメリカの真似をしても成功しません。必ず滅びると言い切っています。


アメリカの後を追うような赤字国債の垂れ流しは、続くわけはありません。
北野さんが傍証に引いたのは、榊原元財務官の発言で、
  問題は、『日本経済は政府の財政赤字を今後も支えていけるのか』
  ではなくて、『支えきれなくなるときがいつ来るか』ということ
  なのです
というショッキングなものです。


では、どうしたら良いのか。


北野氏は「大減税で日本はよみがえる」と提言しました。


大減税をすると何がどうなって日本が良くなるのか。具体的な解説は本書を読んでいただくとして、今回も北野氏の文章は徹底的に分かりやすい文章に仕上がっています。
サブプライムローン関連の本を読んでいると3文字略語や4文字略語で頭があふれそうになりますが、本書にそんな難しい用語は出てきません。


「ご存じのように、米国は○○で日本は△△です。こうすればこうなるのは当たり前です」という、中学生でも分かりそうな説明にうなづいているうちに、今までの常識とはちょっと違う結論に達していることに気づきます。
たとえば、次のように。

  • 3K移民を受け入れてはいけない
  • 米の需要をふやせば自給率が上がる
  • 企業のグローバル化は世界に出ること、国のグローバル化は世界から呼ぶこと
  • 高品質高価格が企業と社員の幸福


私が本書ではじめて知り、深く納得してしまったことを2つ挙げます。


一つは、「史上最悪の犯罪」についてのロシア人の考えです。


日本人の多くはナチスホロコーストと答えます。私もそう思っていました。
しかし、ロシア人は、アメリカが広島・長崎に原爆を落とし、人類史上最悪の大虐殺をしたこと、と考えているそうです。
そう言われれば、あんなに多くの非戦闘員を一発の爆弾で死に追いやったこと、原爆病で長いこと苦しむ人々がたくさんいることを思うと、史上最悪の犯罪といえるかもしれません。


もう一つは、「世界中で日本人が嫌われている」と信じているのはウソだということ。
むしろ、日本は世界から愛されているそうです。


へぇー、そうなんだー。


北野氏はモスクワ在住です。日本を遠く離れているのに、日本が没落せずに繁栄することを本気で願っている様子がヒシヒシと伝わってきます。


お勧めです。