中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日


副題:一極主義vs多極主義
著者:北野 幸伯  出版社:草思社  2007年10月刊  \1,575(税込)  254P


中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日―一極主義 vs 多極主義    購入する際は、こちらから


1970年生まれの北野氏は、ゴルバチョフにあこがれてソ連に留学しました。留学先がちょっと変わっていて、「卒業生の半分は外交官に、半分はKGBに」というエリート大学です。
卒業後もソ連に残った北野氏は、かつての帝国の崩壊を目の前で体験し、エリツィンプーチン大統領によるロシア政治を現地で観察してきました。


北野氏が大学で教わり、その後の世界の出来事で実感したのが、
  「外交の目的は国益の追求である」
  「国益とは金儲けと安全の確保である」
ということです。


著者の培った世界観・歴史観を基にして、分りやすく国際情勢を分析した第2弾が本書。今後日本の取るべき道を示す2冊目の提言書です。


北野さんの文章の特長は、国際問題という難しそうな問題を扱っているのに、決して偉ぶらないことです。
本書でも、世界情勢と日本の幕末情勢を次のように対比させます。
  アメリカ ―― 徳川幕府
  欧州   ―― 譜代大名
  中国   ―― 外様大名薩摩藩
  ロシア  ―― 外様大名長州藩
  日本   ―― 天領(幕府の直轄地)


竜馬がゆく』をはじめとする幕末小説のファンは多いので、とても分かりやすいたとえです。
また、国家がたどる歴史の流れを人間の生老病死のライフサイクルになぞらえて、
  前の体制からの移行期
  成長期
  成熟期
  衰退期
に分類しました。
この「幕末情勢」と「ライフサイクル」に「石油」と「通貨」というキーワードを加え、ほとんど4つの要素で国際情勢をひもといてくれるのが本書です。


複雑な国際問題をたったこれだけのキーワードで説明して大丈夫? と心配になる人もいるでしょう。しかし、著者の北野氏は、「大ざっぱでいいのです」と言い切っています。おおざっぱな方が理解しやすいだけでなく、些末な部分にとらわれて大局を見誤ってしまうという危険が少ない方法なのです。
理解しやすい内容にするための思い切った単純化もユニークですが、北野氏はこのほか、とっつきやすい文章の工夫もしています。「なんとかしてくれ!」「ムカつく」などの会話文の他、本書の元になったメルマガ「ロシア政治経済ジャーナル」では、(^▽^) のような顔文字まで使っているんですよ。
この分かりやすい北野さんの本を、更にエッセンスだけ要約してみましょう。

  • アメリカの財政はボロボロで、40年以上も財政赤字が続いている。
  • しかも、ほとんどが国内債務の日本と違って、アメリカは約35%が対外債務。
  • それでもアメリカが破産しないのは、ドルが基軸通貨だから。
  • ドル体制を脅かす国は、軍事力を使って排除される(イラクのように)。
  • アメリカの覇権維持のためには、今後不足する石油を押さえなければならない。
  • アメリカは衰退期にあたり、成長期にいる中国と近い将来衝突する。
  • 米中戦争、日中戦争は、近い将来に大いに起こり得る。
  • そうならないために、今やっておくべきことは……。


ひといきで読め、しかも、これから国際ニュースを見る目を養ってくれます。
さすが、「皆さんの視点を世界の指導者レベルまで一気にひきあげる」と明言した著書でした。