この道より道まわり道


著者:鎌田 實  出版社:潮出版社  2010年9月刊  \1,155(税込)  221P


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ベストセラー「がんばらない」のあと、心にしみる本を出し続けている鎌田先生が僕は大好きだ。


もう読書ノートにもう8冊も取りあげているが、またまたグッとくる本が発売されたので、最新刊を紹介させていただく。(11月17日付けで『人は一瞬で変われる』という新潮新書が出ることになっているが、まだ「予約受付中」なので、いまのところ本書が最新刊)


本書は鎌田さんと12人の友人、著名人との対談集だ。


一般的に、対談集は会話文で綴られているので読みやすいのだが、一人で話題をコントロールできないという難点がある。うまく内容が深まれば良いのだが、時には片方の個性が強すぎて面白くないこともある。


その点、鎌田さんの対談は安心して読んでいられる。
既に、夜回り先生こと水谷修さんとの対談本や、『世界がもし100人の村だったら』の池田香代子さんとの対談本を出版していて、聞き役としても語り手としても素晴らしい実績を上げている。長寿対談番組「徹子の部屋」ホストの、あの黒柳徹子さんとの対談でも、きちんと聞くこと、語ることのバランスをわきまえている。


今回の対談集でも、初対面のゲスト、旧知の友人ともに、相手の良いところを引き出したり、適度に自分の体験を織りまぜたりしながら、みごとに話題を深めていた。
さすがだ。


最初に登場するのは歌手のさだまさし


鎌田先生とは旧知の仲で、さだまさしが書いた「八ヶ岳に立つ野ウサギ」という歌は、鎌田先生がモデルになっているほどだ。
さだのCD「私は犬になりたい¥490」の話からはじまった2人の対談は、さだのおばあちゃんの武勇伝、さだ自身の35億円借金返済、鎌田先生の貧乏ばなし、……と、よどみなく続いていく。


2人の話に出てきた共通の友人原田泰治氏(風景画家)も3番目に登場し、「泰ちゃん」「カマちゃん」と呼び合う。リラックスした2人が深いい話を連発するのは言うまでもない。


とはいえ、友人との話は誰でもはずむものだ。
鎌田さんがインタビュアーとしてのすごさを披露するのは、初対面のゲストとの対談だ。


たとえば、美容家たかの友梨との対談。
3歳で養子に出されたたかの友梨にむかって、自身も2歳で同じ経験をしたことを披露。事業家として成功する人は心に鬼を持っている、というたかの氏のことばを引用しながら、次のように、自身との共通点を確かめていく。

 僕の本はあたたかな内容のものが多いんです。だから「鎌田はあったかい人だ」とみんなが思っているけれど、実は僕自身の中にはけっこう鬼がいると思っている。たかのさんはそれを素直に「鬼がいる」と言って臆さない。見事ですよ。


社会学者の山田昌弘氏との対談では、よく知られていない山田氏の個人的な経験を引きだす。


「パラサイトシングル」の命名者として名を馳せた山田昌弘氏は、その後も流行語となった「婚活」や、「希望格差社会」などを世に問い、時代の分析者として活躍している。
なんとなく、学問ひとすじで生きてきた人という印象を持っていたのだが、鎌田先生との対話のなかで、山田氏は「実は……」と、学生時代の経験を語りはじめる。


母親が重度の喘息で倒れ、貧乏生活のなか父とふたりで介護生活を送っていたこと、役所は「家族がいるんでしょう」とまったく取り合ってくれなかったこと、母の入院先で修士論文を書いていたこと、等々。
クールな学者肌に見える山田氏が、個人的にこんな苦労をしていたとはまったく知らなかった。


きわめつきは、柳田邦男氏との対談。


ノンフィクション作家として多くの作品を残している柳田氏は、息子の死をきっかけに1995年に『犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日』という作品を書いた。


生半可な気持ちでは尋ねられない子息の死について、鎌田先生は単刀直入に尋ねる。
「絵本の世界に目を向けたきっかけは、やっぱり息子さんの死だったんですか」と。
そして、ふつうは目をそむけたい息子の死についてなぜ作品を書いたのか、書くことでもっとつらくなるとは考えなかったのか、とストレートに質問していく。


文字にすればぶしつけに聞こえる質問に、意外にも柳田氏は真摯に答えてくれた。


なぜ柳田氏は答えてくれたのか。その秘密は、鎌田先生がこの『犠牲(サクリファイス)』にかける思いの深さにあった。


では、『犠牲(サクリファイス)』という作品の何が鎌田先生に関係してくるのか。
――詳しくは、本書で確認いただきたい。


最後に、鎌田先生のあとがきの一部を引用させていただく。

「つらい体験は後できっと生きる」という話を聞くと、本当かなって思うけれど、その言葉が信じられるような人たちと話してきたような気がします。


ぜひ、ご一読を。