著者:大野 更紗 出版社:ポプラ社 2011年6月刊 \1,470(税込) 313P
著者の大野さんは、上智大学の大学院生女子で現在26歳。
日本ではほとんど前例のない「筋膜炎脂肪識炎症候群」という難病にかかっていて、もうひとつ皮膚筋炎という難病も併発している。
難病なので、体の自由がきかず、激しい痛みにさいなまれている。大学院も休学して将来の見通しもたたないが、大野さんは「絶望は、しない」と決めた。
大野さんは言う。
こんな惨憺たる世の中でも、光が、希望があると、そのへんを通行するぐったりと疲れきった顔のオジサンに飛びついて、ケータイをピコピコしながら横列歩行してくる女学生を抱きしめて、「だいじょうぶだから!」と叫びたい気持ちにあふれている。
あれ? おかしいぞ。
この人、難病なのに、ふつうの人を「だいじょうぶだから!」と励ましたいと言っている。
なんか、明るすぎない?
表紙のユーモラスなイラストにも興味を引かれ、手に取った。
読んでみたら、「当たり!」だった。
病気なのに、こんなにエネルギッシュな人は見たことがない。もしかすると、今年、いちばんの収穫かもしれない!
うまく、この本の面白さが伝わることを念じつつ、内容を紹介させていただく。
著者の大野さんは1984年、福島県の片田舎に生まれた。いちばん近いコンビニまで車で15分という、標高約700メートルの山合いの小さな集落は、世間から隔絶されており、まるで「ムーミン谷」のように退屈すぎるほど平和だった。
東京に出て上智大学に通いはじめたころ、ビルマ(ミャンマー)難民という「問題」に運命的に出会い、誰に頼まれてもいないのに世界を救えると思いこんだ。
在日ビルマ難民のインタビューを集めて回ることから活動を開始し、講演会を運営したり、入国管理局に収容されたビルマ人友人に面会したりする。大学2年の2005年の夏には、タイ――ビルマ国境の難民キャンプに初訪問。
眠る時間もないほど活動に没頭していた大学院1年生の夏の終わり。大野さんは、両腕に点々と内出血のようなしこりを見つけた。すぐに布団から起き上がれなくなり、身体じゅうが真っ赤な風船のようにパンパンに腫れた。
関節がガチガチに固まって曲がらない。解熱剤を飲んでも熱が38度以下に下がらない。
病院を転々とするが原因がわからない。もう、ここがダメなら山手線に飛び込むしかない、と悲愴な覚悟で看てもらった某大学付属病院が、やっと入院させてくれることになった。
それまでいろんな病院をたらい回しされていたので、この病院は文字どおり「オアシス」となった。
オアシスに到着するまでも大変だったが、ここに着いてからも「生き検査地獄へ落ちる」ような日々を送る。
いずれ劣らぬ痛〜〜い検査のなかでも、クライマックスは「筋生検」である。麻酔をかけると筋肉組織が変質してしまうので、顕微鏡で筋肉の炎症の状態を調べるために、なんと! 「麻酔なしで、筋肉を、切り取る」という荒技を繰り出す検査なのだ。
大野さんは、検査、いや、手術の経過のなかで、次のように書いている。
「ぎゃああああああああいたーいーいたい――――――」
阿鼻叫喚、絶叫するほかに、何ができるというのだ。
徹底的な検査が終わり、冒頭に書いたような二つの難病と診断された。
このあと、難病患者への福祉サービスを得るために複雑な手続きをこなすお話し、いつまでも入院できないので「オアシス」の近くに部屋を借りて引っ越すお話しが続き、著者の大野さんの悪戦苦闘の様子が描かれる。
病気にまつわる記録なのだから、本書は「闘病記」に分類されるはずだが、ほかの「闘病記」が発している暗さやしんどさは、本書からは微塵も感じない。
最初に「絶望は、しない」と宣言しているし、痛みも苦しみも、あけっぴろげに表現している。
某大学病院を「オアシス」になぞらえるのはまだしも、少しあとになると、「白熱難病教室が開講」とか、「大難病リーグ養成ギプス学校」と呼んだりするし、おしりから化膿した液体が大量に流れ出たことを「おしり大虐事件」と命名したりする。
聞いているこっちが、「おいおい」とツッコミたくなるようなブラックなユーモアが満載なのだ。
300ページを超える「闘病記」なのに、途中で一度も暗い気持ちにならず、一気に読み終えてしまった。
僕の買った本の奥書は「2011年8月16日 第九刷」で、帯には「11万部突破!!」と書いてある。
発売2ヶ月で10万部というのは、すごいペースだ。
下世話な話になるが、10万部売れれば、著者印税は1千万円を超えるに違いない。社会制度を利用するために書類の山と格闘しながら「絶賛生存中!」の著者にとって、1千万円の臨時収入は大きい。
だが、まだまだ足りない。
生きていくためのお金を自分で工面しなければならない著者のために、もっともっと売れろーーー! と僕は叫びたい。
20万部、30万部、いっそ100万部を超えて、億単位の印税収入があれば、安心して闘病生活を送ることができるだろう。
100万部を超えれば、もうメディアが放っておかない。
「困っている人」のニュースがあればコメントを求められるだろうし、「困っている人」との対談、「困っている人」の現場リポート、「困っている人」支援シンポジウムのパネルディスカッション、等々、大野さんの意見を聞かずに社会福祉を語れなくなる。
いままでのマスコミの見方は、「困っている人」=「かわいそうな人」だったから、「困っている人」に対して、上から目線で何かをして「あげる」論調になったり、腫れ物に触るような扱いしかできなかった。
大野さんがテレビに出まくるようになれば、この風潮は変わる。
「困っている人」もふつうの人なんだ。いろんな困ったことを抱えているけど、いつも悲愴感を漂わせているわけじゃない。
「さあ、生きよう。語ろう」と前に進もうとしているし、恋もすれば、冗談も言う。
それが分かれば、メディアの論調も上から目線ではなく、横から目線になる。
そんな日が早くやって来ますように。
そのために、この本が、もっともっと売れますように!