インバスケット思考 究極の判断力を身につける


著者:鳥原 隆志  出版社:WAVE出版  2011年6月刊  \1,575(税込)  302P


究極の判断力を身につけるインバスケット思考    ご購入は、こちらから


「インバスケット」というのは、1950年代にアメリカ空軍で生まれたトレーニングツールで、架空の役職・人物になりきって制限時間内に多くの案件処理を行なう一種のビジネスゲームである。


著者の鳥原氏は、会社員時代に受けた管理職試験ではじめてインバスケットに出会い、衝撃を受けた。重要な問題はもちろん一見すると簡単な問題まで雑多な案件が与えられ、制限時間内に処理しなければならない。しかも、的確に。
全身からも脳からも汗が噴きだしそうなトレーニングに魅せられた鳥原氏はインバスケットの研究を開始し、とうとうその名も「株式会社インバスケット研究所」を設立してしまった。
いままでに作成したインバスケットの問題は、積み上げると腰の高さを超えるほどである。


日本で唯一のインバスケット・コンサルタントの鳥原氏が、インバスケットの内容紹介のために書いた本書では、数ある教材の中から、代表的な問題をひとつだけ取り上げ、ていねいに解説してくれている。




主人公は洋菓子チェーン店に勤める23歳の青山みあ。売れ行き不振部門の業績を立てなおした実績を買われ、若くして上位売り上げ店の店長の辞令を受けた。翌日からの海外研修を前に、すぐに店舗に行って未処理案件を片づけるよう本社の営業部長に指示され、店に向かった。


やっと夜9時に店に着いたが、営業時間は終了し、従業員は誰もいない。
警備員から10時までには店を出るように言われ、事務所の店長用の事務机に向かってみると、書類やメモのほか、連絡ノートや手紙も置いてある。ノートパソコンを立ち上げると、やはり処理しなければならない案件が飛び込んできて、全部で20案件を処理しなければならないことが分かった。


60分で20件を処理できるのだろうか。
青山みあはどんな判断を下したのか。また、その判断は的確だったのだろうか……。



今の世の中、コンプライアンスだのCSR(企業の社会的責任)だのと厳しい社会の目にさらされながら我々は働いている。


クレームひとつでも対応を誤れば大きな問題に発展するし、セクハラやパワハラにも気を付けないと、社内から訴えられる危険もある。管理者は、部下のマネジメントと仕事のマネジメントを上手に行い、職場の人間関係にも気を配っていかなければ勤まらない。


重圧のかかる管理者をどのように選抜し、どのように教育していくか、という難しい問題の答えとしてインバスケットは登場した。
単なる座学ではなく、管理者を取り巻くリアルな事例を我が身に置き換えることによって、参加者はマネジメントの勘どころを身につけていけるそうだ。


洋菓子チェーン店新店長の青山みあの物語もよくできている。もちろん参考になることが多かったのだが、ひとつだけ僕が「ほぉ〜」と感心したことを挙げておく。


それは、生じてくる問題への対処を先送りし、「なんでも着任後に処理します」と対応することの危険性を述べた箇所。

「なんでも着任後に処理します」と対応していると、実際の着任後に大混乱することが予想されます。このようなときに、重要な業務は着任日におこない、重要でない業務は着任日の数日後に設定したり、時間を明確にしたりなどと、着任後のスケジューリングが適切に
できるかがボイントになります。
(中略)これは、普段の業務スタイルをあらわしており、「なんでも着任後に処理します」とする人の多くは、日ごろから非計画的な場当たり的な業務スタイルをとっていることが多いようです。一方で、計画的に明確なスケジューリングができる人は、通常の業務でも効率の良い業務スタイルをとっていることが多いのです。


夏休みの終わりまで宿題をためこんでしまう子どもは、大きくなってからも同じスタイルで仕事をしてしまうのかもしれない。


ふだん早め早めに手を打って仕事しているつもりだが、この箇所に感心してしまったということは、僕の業務スタイルを反省した方がいい、というシグナルなのだろう。


20件の解説のなかに、きっと読者の参考になる考え方がある。