3.11後日本経済はこうなる!


著者:池田信夫 小黒一正 澤昭裕 村上憲郎 小幡績
出版社:朝日新書   2011年6月刊  \735(税込)  206P


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3月11日の東日本大震災から3ヶ月半が経とうとしている。


最初は死者・行方不明者の多さに茫然とするだけだったが、ガソリンスタンドの行列がなくなり、スーパーの棚にヨーグルトやトイレットペーパーがならぶようになると、被災地以外の生活は、一見、地震以前の状態にもどったようにも見える。


しかし、福島第一原発の事故が収束しないことによる不安は、いまだに日々の生活に暗い影を落としている。


こんなに危ない原発は、全部止めてしまえ! という論調を代表する『原発のウソ』(小出裕章著 扶桑社新書)がベストセラーになっている。
また、イタリアの国民投票でも、原子力発電所再開は94%という圧倒的な反対票を集めた。


まるで、世界中の世論が原発を敵視しているように見えてくるが、こういう時だからこそ頭を冷やす必要があるのではないか、と天の邪鬼な僕は考えた。


「決して原発推進派ではない」といいながら、反原発世論に水を差している著者の本を今日は取りあげる。心情的に原発廃止に傾いている人は、少し池田氏の数字と論理に耳を傾けてみてはどうだろうか。




はじめにお断りしておきたいのだが、本書の著者、池田信夫氏はいつも舌鋒するどい。以前、湯川鶴章さんが「あそこまで人をけちょんけちょんに攻撃することはないと思う」と評していたほどだ。最近の池田氏のブログでも、大阪の橋本知事の発言に疑問を呈している。


本書では特定の個人への批判は抑えているが、それでも「言ってることは合ってるかもしれないけど、なんだかムッとくる」、と感じる人も多いと思う。この本を手にするときは、せっかく頭を冷やすために読むのだから、「なんだかムッとくる」は横に置いておくことをお勧めする。


本書の内容に入ろう。


池田氏原発の危険性の冷静に議論をすることは難しい、という。

反対派が「原発のリスクをゼロにしろ」と主張するのに対して、政府や電力会社は「リスクはゼロだ」と主張し、メディアを動員して「安全神話」を宣伝してきました。


福島第一についても、津波の対策が不充分と具体的に指摘されることがあったにもかかわらず、ひとつ認めてしまえば「全部見直せ!」になることを恐れ、津波対策は先送りされた。


池田氏は次のように言う。

こういう論争は不毛です。原発のリスクはゼロではないし、ゼロにすべきでもない。リスクをゼロにするには原発をすべて止めればいいが、それは解決にならない。


今回の事故が起こる前ならともかく、事故が起こったあとに「原発のリスクはゼロではないし、ゼロにすべきでもない」と言い切るのは、よほど腹が据わっているに違いない。


「日本経済」が本書のタイトルに含まれていることでもわかる通り、池田氏はエネルギー問題をイデオロギーの問題ではなく、経済の問題として捉えようとしている。


たまたま原発事故が起こって原発廃止論が盛り上がり、風力発電太陽光発電が注目されているが、エネルギー政策は「安全」とか「エコ」とか一つの条件を絶対化するのは間違いのもと、とも言っている。


風力発電太陽光発電は単価が高く、全量買い取り制度が決まれば自動的に電気料金が上がる。しかも、無風の日や曇りの日は発電できないので、ベースロードとなる他の発電所が必要になる。電気料金が上がってもいい、電力供給不足で企業の生産が落ち、生活水準を下がっても止むを得ない、という主張も見受けられる。


しかし、対談者の一人である21世紀政策研究所研究主幹の澤氏は、次のように懸念を表明する。

「本音のところで、大多数の人がその意見についていくとは思えません。そういう意見が大多数になっていると信じて、政府がエネルギー需要を低く見積もりすぎてしまうと、将来電力不足による停電が生じる可能性が高くなります」


人の心は移ろいやすい。


3月11日の地震直後、僕は職場の灯りをせっせと消していたのだが、1ヶ月経ったころ、まだ明るい時間なのにブラインドを閉めて照明をつける人が現れた。


「電気をつける前にブラインドを開ければいいんじゃないですか?」
と声をかけたら、
「ブラインドを開けたら、まぶしすぎて目に悪いんです!」
と反論された。


たった1ヶ月で、喉元すぎて忘れてしまったようだ。


これから猛暑になったときに、大多数の人が本当に冷房なしで我慢できるのか。今年の夏はなんとかしのいだとして、人びとに節電疲れが出たとき、どうやって電力使用量を抑えるのだろうか。


何も解決していないのに、マスコミは沖縄の基地問題を話題にしなくなった。


原発問題で同じように踊らされないように、社会の「空気」を読まずに本書を読んでみてはどうだろう。