佐野洋子対談集 人生のきほん


著者:佐野洋子 西原理恵子 リリー・フランキー   出版社:講談社   2011年2月刊  \1,470(税込)  267P


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佐野洋子氏と西原理恵子の対談、佐野洋子氏とリリー・フランキーの対談が収められた対談集を今日は取りあげる。


西原理恵子は、この読書ノートで何度も取りあげているし、ベストセラーの書評は難しいのだが、リリー・フランキーの『東京タワー』の書評も5年前に書かせてもらった。(2006年のブログ参照


だが、佐野洋子氏の本は『一〇〇万回生きたねこ』しか読んだことがない。また佐野氏は昨年11月に故人になっているので、「作家は呼び捨てでも良い」という慣習に従わず、佐野氏だけ敬称を付けることにする。
ちょっと違和感があるかもしれないが、ご了承あれ。


佐野氏と西原理恵子リリー・フランキーには、武蔵野美術大学卒業という共通点がある。
もうひとつ、西原が本書の扉絵で描いている共通点は、西原とリリーが、

  同じ武蔵美
  描けない絵で
  どうにかやってしまう組

ということだ。


絵本作家として『一〇〇万回生きたねこ』の大ヒット作を持つ大先輩の佐野氏に対し、西原とリリーは約25年後輩にあたる。


「どうにかやってしまう」どころか、『東京タワー』や『毎日母さん』で売れに売れた2人は、やっと佐野氏の対談相手にふさわしいカンロクを手に入れた。
別々に佐野氏の自宅を訪れた2人は、初対面にもかかわらず、仕事、親子関係、夫婦関係など、人生の本質をえぐるような対話に巻き込まれる。


先輩の佐野氏が赤裸々すぎるくらいざっくばらんに話してくれるので、ついつい古傷をさらけ出すような応答をしてしまったのだ。


たとえば、佐野氏が西原のことを、

「あなたみたいに自分の体をはってる人のこと、すっごい偉いと思っちゃう」


と褒めたてると、西原は、

「偉くはないです。私にはクリエイティビティがないんですよね。自分のことは、クリエイターじゃなくて、アレンジャーだと思ってるんです。だから机の前で考えてても、何も思い浮かばない。現場に行って、何かヒントを得ないと、話が何も思い浮かばないですね」


と自分の作風について謙遜を込めて分析してしまう。


また、リリー・フランキーは、『東京タワー』にも書いた母との思い出ばなしを問われるままに語っているうちに、突然、佐野氏に次のように断定される。

佐野 ああ。あなた、十分にお母さんに愛されたって感じがしてるでしょう?
リリー そう、ですね。
佐野 本当に、くまなく愛されたって感じがするでしょう?
リリー そうですね。母親に不満みたいなものはないですね。
佐野 それだけでいいじゃん!
リリー はい(笑)。

もう、恐れ入るしかない。



単なる聞き上手ではなく、佐野氏もまた自分の古傷をさらす。
夫婦の情愛について、佐野氏は、次のような考えを西原に披露する。

 夫婦というのは、生活という部分でともに年月を重ねていって、恋愛じゃない情愛を重ねていくわけじゃない?
 私は若いときから、結婚って晩年のためにあると思ってたんです。十八のときから、「結婚したら途中にどんないやなことがあっても、晩年のために乗り越えるもの」とわかってたのよ。だけど晩年になる前に二つも別れて、結局ひとりになっちゃってさー。しょうがないよね、うまくいかなかったんだから。


佐野氏のこの発言を読んで、僕は最近読んだばかりの『星守る犬』を思い出した。(村上たかし著コミック『星守る犬』はこちら


定年間近で持病のために退職した主人公は、長年連れ添った妻から離婚を迫られる。
妻は離婚の理由を次のように口にする。

  一緒にいたくないほど嫌いになったわけじゃないのよ。
  ただ――
  持病をかかえて職を失ったあなたをね、
  支えていくほどの強い思いが、無いの。


恋愛じゃない情愛を重ねていくのが夫婦の理想だとしても、そう考えている佐野氏自身が2回も離婚を選んでしまうのだから、男と女が飽きずに一緒に暮していくのはむつかしい、らしい。


――らしい、と敢えて言っておこう。
だって、わが家はまだラブラブですからね〜。


と、余談はさておき、
人生の本質をえぐるような対話をくり広げた佐野氏だが、実は癌の告知を受けていた。


リリー・フランキーの母親が癌で亡くなった話のあと、話題がお墓の話になったところで、ついでのように、

「私さ、「あと二年」と言われてから、三年半たってるの。どんどん新しい薬が出てきちゃうんだよねー」

と余命を口にする。


本書の帯に、「佐野洋子 最後の肉声」とあるように、本書は最後の対談集となった。


死を目前にしても、佐野氏はちっとも枯れていない。


死ぬまで瑞々しかった佐野氏のパワーの源は何だったのか。
ぜひ手にとって確かめていただきたい。