NTTデータ流ソーシャルテクノロジー


副題:「発信」「気づき」「つながり」で組織の壁を打ち破る
著者:Nexti運営メンバー有志
出版社:リックテレコム  2010年2月刊  \1,050(税込)  131P


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NTTデータは資本金1,425億円、社員数が3万人を超える大企業だ。


会社が大きくなればなるほど、部門間のセクショナリズムが起こり、意志の疎通が不十分になったり非効率になってしまうといわれる。
いわゆる大企業病の打破を目指し、ITを活用した新しいコミュニケーション手段として、NTTデータは2006年4月に社内SNSをスタートした。


その後活発に利用されるようになった社内SNSは、今やNTTデータになくてはならないサービスとなった。
やった! 大成功だ! と、運営メンバー有志がとうとう本まで書いちゃったのが本書である。


NTTデータの社内SNSである「Nexti」の登録者数は2010年1月現在で9,300名。コミュニティ数1,000、日記の投稿数は1日あたり100件、1日に1回アクセスするユーザー数が全体の10%とのこと。
mixi の会員数2,500万人に比べると見劣りしてしまうが、自由参加なのに社員の約3割が加入しているというのは凄いことだ。


運営メンバーとしては、達成感があったのだろう。「プロジェクトX」の感動が味わえる――というと褒めすぎかもしれないが、「ぼくたち、がんばったもんねー」という誇らしい気持ちが伝わってくる内容だったので、紹介させてもらうことにした。


あまり一般受けしなさそうな本だが、お付きあいいただけると嬉しい。



このプロジェクトがスタートするきっかけになったのは、NTTデータ社が「経営ビジョン」と「行動ガイドライン」を2005年6月に策定したことだった。


経営層がビジョンを発表しても、社内に定着しなければ絵に描いた餅である。社内への浸透策として「新・行動改革ワーキンググループ」の設置が決まり、全社員に向けて参加希望者を公募した。


新入社員から40代後半まで66名が名乗りをあげ、8グループに分かれて活動を開始。――と、ここまでは、どこの企業でもよく聞く話だ。


しかし、意欲に燃えた有志メンバーが本当に社内風土を変え、改革を実現する場合もあれば、建て前だけのビジョンに失望して雲散霧消してしまう場合もある。
幸いなことにトップの改革意欲は高く、この運営メンバーが打つ手は不思議にも着実に成果を上げる結果に結びついていった。


なぜこのプロジェクトは成功したのか。


――いくつか答を挙げられるだろうが、一番の成功要因はチームの名前だったのではないか、と僕は思う。


他のチームがCSR、品質重視、グローバルな視点などの行動ガイドラインに取り組むなかで、「セクショナリズムを排し、仲間の知恵と力を合わせる」というビジョンの実現を目指すことになったチームのメンバーが付けた名前。


それは、「リスペクターズ」だった。


セクショナリズムを排するために必要なのは、相手に対する尊敬や敬意――リスペクト精神を持つことだ、という思いを込めたからだ。


リスペクターズのメンバーが掲げた目標は、部門間の壁を取りはらってオールNTTデータの総力を結集できるような、風通しの良い社風をつくること。
そのために、まず「セクショナリズムはなぜ生まれてくるのか」という根源的問いを発するところから議論をはじめた。


検討を進めた結果、社内SNSをはじめることになり、システムの選定や規約の制定、メンバーの募集、登録、……とプロジェクトが進んでいく。


社長を巻きこみつつも、トップダウンでもゲリラでもない運営体制を実現したことや、社員へ「Webを使った喫煙室、給湯室のようなもの」と説明したことなど、感心させられることがたくさん載っている。
SNSの内容を充実させる工夫もたくさん紹介されているので、興味のある方はぜひ手にとって熟読してもらいたい。


同じく大企業で働く会社員として感心してしまったのは、「リスペクターズ」メンバーが匿名ではなく、顔写真付きの実名で登場していることだ。


IT業界に限らないと思うが、ふつうの会社員は広報部にでも所属していないかぎり顔と名前を公開したりしない。
本書の出版社がテレコム・IT・家電分野の専門出版社ということで、一種の学会論文の延長という位置づけなのかもしれないが、学会論文と違っていきいきとした笑顔の写真が並んでいる。


しかも、第1章を書いてトップに紹介されている著者が、2009年に会社をスピンアウトしてベンチャーを立ち上げているのは驚いた。


大企業病に冒されている会社なら、こんな社員は“無かった”ことにするはずだから、決して著者として登場することはない。


ところがこの本では、会社を辞めた人間が第1章を書いていて、一人だけノーネクタイなのに著者ページの筆頭に登場する。
まるでリクルート社みたいじゃないか。


この大企業らしからぬオープンさがNTTデータの社風になったのか、それとも「リスペクターズ」だけが特殊なのか分らないが、これがよき先例となって日本中の大企業の風通しが良くなることを念願したい。


「まえがき」で社長もいいこと言っているではないか。

  仕事のオンとオフをバランスよく組み合わせた“公私混合”(公私混同では
  ありません)の確立を目指すことにより、プロフェッショナル化が進む人財
  の知識集約が可能となり、新たなワークスタイルを実現するためのインフラ
  になりうるのではないかと考えています。

と。


かつて、インターネットの動きの速さを犬の寿命にたとえて、「ドッグイヤー」と表現したことがあったが、今や「ドッグイヤー」という言葉を使うことが恥ずかしくなるほど次々と新しい動きが出てきている。


特に、昨年の後半から大流行しているツイッターは、既存のネットサービスを根底から脅かしかねない勢いで広まっている。
ツイッターは会社のコミュニケーション手段にも使える! という主題の山本敏行著『iPhoneとツイッターで会社は儲かる』なんていう本も出ているくらいだ。


しかし、会社の規模が大きくなればなるほど、新しいコミュニケーション手段が浸透するには時間がかかるものだ。


大流行したmixiのエッセンスが、やっと会社のコミュニケーション手段にも適用されるようになった、という視点で見るとき、とても実用的な一書と感じた。