上司は部下より先にパンツを脱げ


著者:小倉 広著  出版社:徳間書店  2008年4月刊  \1,470(税込)  256P


上司は部下より先にパンツを脱げ! リクルートで学び、ベンチャーで試し、社長となって確立した99の仕事術    購入する際は、こちらから


このタイトル、人目を引くことは間違いないでしょう。でも、ちょっとお下品です。
確かに、隠し事をしない、率直になることを「パンツを脱ぐ」という先輩が私のまわりにもいましたけどねえ……。


まず女性には買ってもらえないでしょうし、男性でも引いてしまいます。


もうひとつ、本書を手にとりにくくしているのが、はじめから
  「MITビジネス・スクール教授のダグラス・マグレガーは有名な
   Y理論において」
とか、
  「ハーシー&ブランチャードが提唱したシチュエーショナル・リー
   ダーシップ理論によれば」
などと、学術界の権威、海外の権威に頼っているような書き方をしているところです。


あ〜あ、この本ハズレだったかなあ……、と読むのをやめようかと思ったくらいです。
でも、藤原和博さんの『リクルートという奇跡』、福西七重さんの『もっと!冒険する社内報』、松永真理さん『iモード以前』など、リクルートの社風を語る本が大好きな私です。
ちょっとガマンして読み進んでみると、だんだん著者の小倉さんも肩の力が抜けて、読みやすくなってきました。


今はベンチャー企業の社長として活躍する著者も、リクルートの新入社員だったころは、文句の多い若造のひとりでした。
「飛び込み営業って本当に意味があるんですか」と酔った勢いで先輩に食ってかかったり、営業成績が良くなったかと思うと喫茶店で終日油を売るような自堕落な生活を送ってみたり、異動先が期待と違うと文句を言ったり。


ふつうの会社なら、自己中心的で協調性のないダメ社員とみなされ、相手にしてもらえなかったかもしれません。


しかし、本書でも強調しているとおり、リクルートという会社は、働く社員のモチベーションを第一に考えることを徹底する会社でした。
サボッていることに気づいても、上司はわざと気づかないふりをしている。それを教えてくれた先輩は、
  「他人に注意されても人って変われないでしょ」
  「もうオグちゃっも社会人の大人なんだから」
と諭してくれたのです。


もう一度まじめに営業にトライした著者の小倉さんは、「できる営業マン」として社内で認められるようになりました。


このあと小倉さんは第2章で中堅社員としてバリバリ仕事をこなし、
第3章でコンサルタントとして高い水準のプロの仕事術を身につけ、
第4章でベンチャー企業に転じてからは、管理職として、経営者として成功体験を積み、
とうとう第6章では「社長を育てる社長」として、部下を子会社の社長として成長させる方法まで身につけてしまいます。


この華やかな経歴をさりげなくたどりながら、デキル社員になる仕事術、成長する会社を育てる経営術を指南している、とても内容の濃い本です。


成功体験を重ねてきた著者ですので、「そうは言っても、現実は……」と疑問を差しはさみたくなる箇所もありますが、確信に満ちた語り口と、具体的エピソードと共に解説される経営理論のキーワードを読んでいると、元気と知的満足感の両方を得ることができます。



私が一番考え込んでしまったのは、セクション26に出てくる小倉さんの体験を読んだときでした。


小倉さんの会社が2年目に入り、部下に惰性を感じるようになったときのことです。ネガティブな発言ばかり繰り返す部下に、小倉さんは言いました。他人のせいにするのではなく、自分の中に原因を探すようになってもらいたい。「他人を指さす」のではなく「自分を指さす」ようになれ、と。
部下からグチは減ったものの、かつてのような輝いた表情が戻りません。


あるとき、「トップが社員の視点に立っていない」という問題提起を目にして、小倉さんは稲妻に打たれました。


「他人のせいにするな、自分を指させ」と部下に言っていた自分。しかし自分は、問題を現場社員のせいにしていた。社員の視点に立っていなかった。
トップという地位に甘んじて、自分が変わろうとしていなかった。
自分を指さしていなかった。


小倉さんは、次のように結論します。
  「自分を指させ」と他人に求めた時点でそれは自己矛盾です。
  なぜならば、自分を指させと言った本人自体が他人を指さして
  いることになるからです。


トップの道は険しい。
そのことに気づいた小倉さんは、きっと本物のリーダなのです。


これだけ裸になった著者なら「パンツを脱げ」というタイトルもむべなるかな、と納得しておきましょう。