著者:林 望 出版社:集英社新書 2008年1月刊 \735(税込) 198P
著者の林さんは「個人主義」という言葉を知らない幼いころから個人主義的生き方をつらぬいてきました。団体で何かするのが嫌でたまらない性分で、長じてからも意味もなく時間を浪費する宴会や「付き合い」をお断りしています。
高校のクラス会であろうと、クラブの同期会であろうと、酒宴と分かれば出ない。
たとえ自分自身の送別会であろうと欠席する、という徹底ぶりなのです。
このように日本では少数派の道を歩んできた林さんは、還暦を前にして自分の生き方をふり返ってみました。
林さんは考えます。
戦後の上げ潮に乗って勢いのある時代にそぐわなかったかもしれないけれど、「自分とは何か」を問う人が多くなってきた今こそ、自分の生き方も参考になるのではないか。
そこで、「信じるところを、そこはかとなく書きつける」ことにしてでき上がったのが本書です。
本書は「個人主義と利己主義とはどうちがうのですか」など、20個の質問に答える形で構成されています。
Q&A集の形式を採用するとは、さすが大学の先生をしていただけありますね。林さんが他の著書で自分のことを「リンボー先生」と呼んでいるのも納得です。
林さんの定義する個人主義は、自分のことだけを考えている「利己主義」とはっきり一線を画します。自分以外の人を「一個独立の個人」として認めることを第一歩として真の個人主義はスタートするのです。
誰かに寄りかかったり依存したりしないことが理想ですから、林流の個人主義はなかなかシンドイものです。
他人を尊重することを重んじますので、相手の言うことをろくに聞かずに自分の考えを押しつけるおせっかいな人や、十把ひとからげに同じことを要求する団体主義・全体主義とは遠くはなれています。
また、よく誤解されることですが、個人主義は決して孤立主義ではありません。
林さんが本書で提案している内容は、「和」を乱すことではありませんし、むしろみんなが愉快に、迷惑をかけずに暮らしていけるよう、いつも他人を思いやることが必要なのです。
私がいちばん感心したところ、林さんの個人主義の徹底ぶりがよく現れているのは、夫婦の間の個人主義です。
互いに尊重して役割を分担するようにしていると、台所仕事は林さんの役目、洗濯や営繕関係が「妻」の役目ということになりました。もともと「妻」は料理なんか好きではないし、逆に林さんは大好きだから、というのが理由です。
そして、原則として、「妻」は林さんの世話を焼かないし、林さんも「妻」の生活に干渉しない。
そういう夫婦関係を「世話を焼かナイ助の功」と言うのだとか。
うまい! ざぶとん1枚!
生きる姿勢をちょっとだけ見直すことのできる一冊でした。