暴走する資本主義


著者:ロバート・B.ライシュ 雨宮寛/訳 今井章子/訳  出版社:東洋経済新報社  2008年6月刊  \2,100(税込)  379P


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読書ノート9月11日号で『ルポ貧困大国アメリカ』を、9月14日号で『格差はつくられた』を取りあげました。
2冊とも、貧富の差が拡大するアメリカの惨状を描き、貧困層のうめき声が聞こえるような告発本でした。


今日の一冊を購入したは『格差はつくられた』と同じ日です。同じような内容だろうから、一気に読んでしまおうと読みはじめたのですが、当てが外れました。
まず、1ページあたりの文字数が多く、ページ数も多い。しかも、遠いアメリカのできごとを書いていると思いきや、生活者としての自分の行動を反省させられる内容だったのです。他の本と並行で読んでいたとはいえ、考えながら読んでいるうちに、読了までに2週間もかかってしまいました。



『暴走する資本主義』という題名が示すように、「最近の資本主義は常軌を逸しているのではないか」という基本認識から本書はスタートします。


では、なぜ資本主義は暴走してしまったのでしょう。


『格差はつくられた』では、「要するに共和党の“保守派ムーブメント”が悪いのだ」と犯人を示してくれました。
『暴走する資本主義』著者のライシュは違います。


資本主義の暴走を許したのは、あなたであり、私である。
消費者としてのあなたが少しでも安いものを求めるから、また投資家としてのあなたが少しでも株主利益の多い投資先を求めようとするから、企業は従業員の給料を減らし、有能な経営陣に高額な報酬を与えるようになるのだ。


――これがライシュの答えです。


具体例として、ライシュは自宅近くの個人書店のケースを示しました。
何年も前から地元の個人書店をひいきにしていたライシュですが、ある日自分の本棚が、大型書店やアマゾンで買った本ばかりになっていることに気づきます。近所の個人書店に足を運ばなくなっていたのです。
ライシュ一人のせいではありませんでしたが、とうとう個人書店は閉店してしまいます。


同じように、何かお買い得な商品に出会ったら、その商品を作る従業員が給与カットを呑んだかリストラされた可能性が高い。競争に勝つためにコストを切り詰めるということは、誰かの給料を少なくすることなのです。


競争がもっとゆるやかだった昔の世の中、中産階級の多い一昔前の資本主義から苛烈な資本主義への道を後押ししているのは、消費者や投資家としての自分自身だったとは……。


誰のことばか忘れましたが、
  「他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない」
との戒めがあります。


知らず知らずのうちに、他人の不幸の上に自分の幸福を築いてしまう社会システムは、何とかしなければなりません。
しかし、自分一人が消費者としてわざと割高の商品を買ったとしても、何の解決にもなりません。


ライシュの示す解決策は、「購入や投資を個人的な選択ではなく社会的な選択にする法律や規制を作ること」です。日本でも最近よく耳にする、行きすぎた「規制緩和」を元に戻そうという意見と同じ潮流なのかもしれません。


ライシュはこの他、企業が政治に働きかけることが民主主義を後退させることを示し、企業が「社会的責任」を声高に叫ぶときこそ注意が必要であることを警告しています。


消費者や投資家ではなく、民主主義に参加する権利と責任を持つ「市民」として振舞うことを求め、ライシュは次のように本書を締めくくりました。

  しかしこのことは、私たちが市民としての責任を真剣に考え、そして
  民主主義を守ろうとしてはじめて達成することが可能な偉業である。
  最初の一歩は(たいていそれが最も困難なことであるが)、私たちの
  考えを整理してきちんとした形にしていくことである。