副題:夢を旅した少年/ソフィア
著者:パウロ・コエーリョ/著 山川紘矢/訳 山川亜希子/訳
出版社:角川文庫 1997年2月刊 \580(税込) 199P
ここはスペインのとある田舎の村。
一夜の宿を求めて、羊飼いの少年が朽ち果てた教会にやってきました。
その夜、少年は夢を見ます。
夢の中に現れた一人の子どもは、少年をエジプトまで連れて行き、隠された宝物のありかを教えようとしました。正確な場所を教えてもらう前に夢は覚め、少年の心に強く残ります。
しばらくして着いた村の広場で、少年は「セイラムの王様」と名乗る不思議な老人に出会い、前兆に従って自分の運命に従うよう助言されました。少年は、羊を売ってアフリカ行きの船に乗ることを決意します。
アフリカに渡った少年は、あり金をすべて盗まれたり、クリスタル商人の店に奉公したり、砂漠で命がけの冒険をしたり、様々な経験を積みながら、少しずつエジプトに近づいていきます。
旅の途中で出会ったアルケミスト(錬金術師)は、少年に様々なことを教えてくれました。
自分の心に耳を傾けなければいけないこと。
夢を追求する一瞬一瞬が神との出会いであること。
ピラミッドの方向に進むべきこと。
そして、少年の宝物のある場所に、少年の心もあるということ。
いよいよピラミッドの見える砂丘に立ち、砂を掘り始めた少年の身に起こったこととは……。
ジャンルとしては、ファンタジー小説に入るのでしょうか。「夢」に向かっていく少年の物語は、今まで読んだ次のような物語を思い起こさせます。
- 求道の果てに、流れる川から全てを教えられた『シッダールタ』。
- 速く飛ぶことを極限まで追求し続けた『かもめのジョナサン』。
- ロンドンの下町から商才ひとつで身を起こす『チェルシー・テラスへの道』。
- ドラゴンを乗りこなして、夢を実現させる秘密を会得するまでに成長するピッポを描いた『ドラゴン・ノート』。
ドラゴンつながりでもうひとつ。
- 自分自身の成長の物語をつづるテレビゲーム『ドラゴンクエスト』。
ヘルマン・ヘッセのビルドゥングスロマン(教養小説)にも、冒険ファンタジーにも通底する、人類普遍の「何か」が本書に込められているのでしょう。
読み方によっては、何もかも寓意に満ちている言葉ばかりです。
私の気になった文章を、いくつか引用しておきます。
アルケミスト(錬金術師)について
彼らは旅行し、賢人と会い、疑い深い人たちに奇蹟を起こして
みせ、「賢者の石」と「不老不死の霊薬」を持っていた。
アルケミスト(錬金術師)が少年に語った言葉
傷つくのを恐れることは、実際に傷つくよりもつらいものだと、
おまえの心に言ってやるがよい。夢を追求している時は、心は
決して傷つかない。それは、追求の一瞬一瞬が神との出会いで
あり、永遠との出会いだからだ。
少年が太陽に語った言葉
僕がはじめて大いなる魂と触れ合った時、僕は大いなる魂は完
全だと思っていました。しかし、その後、大いなる魂もまた、
他の創造物と同じであり、情熱も持っていれば争いもするとい
うことがわかりました。大いなる魂を育てるのは、私たちなの
です。
本書は1988年にブラジルで発刊され、全世界でベストセラーになったそうですし、ローレンス・フィッシュバーンの監督・主演での映画化計画も発表されました。世界中で3000万部以上売れ、映画の制作費は6000万ドル強(約63億円)の大作になるといわれていますが、ちっとも知りませんでした。
私がこの本を知ったのは、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」というブログの9月16日のエントリです。
(「スゴ本」というのは「すごい本」のことで、「Dain」さんがこのブログを書いています)
本を選ぶコツのひとつは「本ではなく人を選ぶ」ことだ、というDainさんの意見には全面的に賛成ですし、「本ばかり読んでるとバカになる」とのお言葉は、肝に銘じておきたい警句です。
その「Dain」さんがこの本を知ったのは「妄想大好きッ娘ゆりさん」とのこと。
「Dain」さんは『アルケミスト』を次のように勧めています。
スゴ本。ただし、読了後「もっと早く出会っておけば…」と
後悔した一冊でもある。
こんどは、私から皆さんにお勧めです。
映画が公開される前に、ぜひ出会ってみてください。