なぜビジネス書は間違うのか


副題:ハロー効果という妄想
著者:フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子/訳
出版社:日経BP社  2008年5月刊  \1,890(税込)  310P


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企業が継続的に成功していくカギは何か。
どのようにすれば他社より優れた業績を上げつづけることができるのか。


この難しい問題に答えを出してくれる本があれば、企業の経営者やマネジメント層が先を争って読むにちがいありません。
この問題に答えを出した! と自称するビジネス本は、数多く存在します。そのなかでも有名な本を、著者のローゼンツワイグ氏は次のようにピックアップしました。


  『エクセレント・カンパニー』
  『ビジョナリー・カンパニー』
  『ビジネスを成功に導く「4+2」の公式』
  『ビジョナリー・カンパニー2』


特にはじめの2冊は、世界的にベストセラーとなった有名なビジネス書です。


しかし、優れた経営方針の秘密を解明しているはずなのに、これらの本に登場する優良企業の多くは、本が出て数年後には業績が低迷していました。


『エクセレント・カンパニー』で輝いていた43社のなかで、14社はたった2年後に「輝きを失って」いると評価されます。
『ビジョナリー・カンパニー』で素晴らしい業績を記録したと紹介されていた17社のなかで、5年後の総株主利益率がS&P500(アメリカの代表的な株価指数)を上まわったのは、半分にも満たない8社だけでした。


これほど著名なビジネス書が間違ってしまったのはなぜなのか。


ローゼンツワイグ氏は、素晴らしい業績を残している企業は、何もかもがすばらしく見える、後光(ハロー)がさしていることを見逃してしまったから間違ったのだ、と断定しました。


業績さえよければ、リーダーは的確な判断ができる優秀な人間と評価され、顧客の意見によく耳をかたむけ、効率のよいマネジメントを実践していると賛嘆されるのが常です。
同じような社内風土をもっていても、業績のふるわない会社は、リーダーが傲慢で、顧客の意見を無視し、マネジメントの効率が悪いと非難される。
経済雑誌の特集記事やインタビューは、業績というフィルタのかかったレポートばかりです。


そんな、業績の後光(ハロー)がさしている記事を何百件と分析したとしても、出した結論が正しいわけがない。だからビジネス書は間違ってしまうのだ。


著者のことばは痛快そのものですが、いいんでしょうか、こんなこと言っちゃって。


だって、この本も“ビジネス書”なんですよ。
しかも、「企業パフォーマンスを向上させるにはどうすればいいのか」に答えを出すと宣言しているのです。


有名なベストセラーをけちょんけちょんにやっつるからには、すばらしい答えを見せてくれるんだろうな!


ページを繰れば繰るほど、読者の期待は高まります。


さあ、筆者の出した答えは何か?


知りたい方は、本書を手にとってください(汗)。


いつも、肝心の内容をお伝えしない書評で申し訳ありません。
お詫びのしるしに、本書前半の、いままでのビジネス書を「妄想」としてばっさばっさと切り捨てるエッセンスを紹介しておきます。


妄想1――ハロー効果
ハロー効果とは、企業の全体的な業績を見て、それをもとにその企業の文化やリーダーシップや価値観などを評価する傾向のことである。一般に企業パフォーマンスを決定づける要因だといわれている多くの事柄は、たんに業績から跡づけた理由にすぎない。


妄想2――相関関係と因果関係の混同
二つの事柄に相関関係があっても、どちらがどちらの原因であるかはわからない。社員が仕事環境に満足していると、会社き業績があがるのだろうか。調査結果は逆のことを示している。つまり、会社が成功しているから、社員はそこで働くことに満足感を覚えるのである。


妄想3――理由は一つ
特定の要素、たとえば望ましい企業文化や顧客志向やすぐれたリーダーシップによって業績が向上することは、多くの調査によって示されている。だが、これらの要素の多くは相互に強く関連しており、個々の影響は調査者が主張するほど強くない。


妄想4――成功例だけをとり上げる
成功した企業を数多くとり上げて、それらに共通するパターンを探しても、成功した理由を浮かびあがらせることはできない。成功の要因を知るためには、成功していない企業と比較しなくてはならないのである。


妄想5――徹底的な調査
どんなにたくさんのデータを集めようと、どんなに厳密な手法で分析しているように見えようと、データの質が悪ければ意味はない。


妄想6――永続する成功
好業績をあげている企業も、時がたてばほぼ例外なく業績が低下する。永続する成功を約束するビジネス書は魅力的だが、現実的ではない。


妄想7――絶対的な業績
企業パフォーマンスは相対的なものであり、絶対的なものではない。業績を向上させても、競合企業にはるかに後れをとっているということもありうるのである。


妄想8――解釈のまちがい
成功した企業が戦略をしぼりこんでそれに力を集中させているのは本当かもしれないが、だからといって、戦略を一つにしぼりこめばかならず成功するということにはならない。


妄想9――組織の物理法則
企業パフォーマンスは自然界の不変の法則に支配されてはいない。いくら私たちが確実性や秩序を求めても、科学のような正確さで業績を予測することは不可能である。


過去のビジネス書にダメ出しする前半だけでも、胸がスーッとします。
ぶ厚そうに見えますが、読みやすい翻訳で、スラスラ読めます。


ビジネス書が不得意の方もお試しあれ!