著者:日垣 隆 出版社:幻冬舎新書 2009年9月刊 \777(税込) 213P
3年前、著者の日垣氏はウツになりかけた。
強烈な喪失感とストレスに襲われ、気分がジェットコースターのように上下する毎日が続いたそうだ。
ウツになる原因は、父親や親しい友人の死が続いたことにある。
理由がはっきり分るのだから、「ウツ病」ではなく「落ち込み」が強くなっただけと言える。
ならば、精神科の薬を飲まなくても自分で治せるのではないか。と、日垣氏は考え、ウツに関する大量の本を読み、メモを大量に書きながら自分の体験を客観視するよう努めた。
荒療治の甲斐あってほぼ立ち直った日垣氏が、ウツにならない方法、なっても克つための方策を50項目にわたって紹介するのが本書である。
あくまで生兵法(なまびょうほう)なので――と著者は言っていないが――本物の「ウツ病」の領域をカバーするものではない、とあらかじめ断っている。
日垣隆氏は、挑発的な文章を書く。
『どっからでもかかって来い!』では、毎日のように何か憤慨する事態にぶつかり、ケンカばかりしている日常を綴っていたし、『すぐに稼げる文章術』では、お前らに教えてやるよ、という上から目線でものを言い、「すぐに稼げる」というタイトルなのに「最低1万時間はやり続けなければならない」と読者を突き放していた。
そんな日垣氏がウツになりかけた。
他の人のウツ体験なら、きっと「たいへんでしたね〜」となぐさめたくなるに違いないが、この人にそんな言葉はかけられない。
「みせかけの共感を口にするのは、自分が優位に立っていることを確認し、優越感に浸っている証拠だ」などと攻撃されるおそれがあるからだ。
彼の本を読んだ経験が邪魔をしてしまい、書いてあることを素直に受けとめるのがむつかしい。
日垣氏の本を読んだことがある人は、無理にでも、いったん頭の中を白紙にしてみたほうが良い。
本書の話題はウツからスタートするが、今のところ僕はウツの気配も、ウツの心配をしたこともない。重度の睡眠障害の日垣氏と違ってふとんに入れば3分で寝てしまうし、「落ち込み」が何日もつづくこともない。
腰痛で1ヶ月仕事を休んだときも、カミさんが「この先、どうなるのか……」と不安に感じているのを尻目に、「なんとかなるさ」と思い続けていた。
とはいえ、体力と気力は年齢とともに衰えていくもの。
心の健康が衰えたときに思い出すのにちょうど良い一書かもしれない。
あまり深く共感する箇所や身につまされる箇所は少なかったが、いくつか印象に残ったフレーズを引用しておこう。
- 「好きだったことがイヤになった」は落ち込みのバロメーター
- 「ストレス=それをやるのが本当はイヤな状態」
- 七番目だった人が一〇番になるより、ずっと一番できた人が一〇番になるほうが、ダメージは大きくなります。
- 「時間の経過」だけに任せず、小さなガス抜きを繰り返す
- 「いずれ関係が破綻しそうな人」は早めに見限っておく
読みおわったところで、この本によく似た本があったことに気づいた。
著者が何でも記録した結果を元にしていて、上から目線で書いた本。
どこかで、同じような本を読んだ気がする。
なんだっけ……。
そうだ!
岡田斗司夫氏の『いつまでもデブと思うなよ』と同じだ。
50キロも減量したのだから、「すごいなぁ」とか「えらいなぁ」という感想が湧いてきそうなものなのに、なぜか「ふ〜ん」、「それで?」と言いたくなってしまう。
二人とも、なんだかエラそうだから共感しにくいのだ。
プロレスに悪役(ヒール)がいるように、本の世界にも、「ファンじゃないけど、くやしいけど読んでしまう」本があるんだなぁ……。
それにしても、日垣氏の落ち込みは激しかったようで、ナポレオンの最晩年について次のような感想を寄せている。
仕事に失敗し、部下に裏切られ、妻子にも見捨てられ、一人死んでいく
中年男……。
何やらナポレオンに親近感すら湧いてきます。
実際に、この落ち込み期間に前後して、日垣氏は離婚を経験した。
次は、家庭崩壊の過程をネタに一冊書き上げる、とどこかで読んだ気がする。
さすが、ガッキィファイター。
次回作も、反発しながら、ついつい読んでしまうに違いない。