史上最強の人生戦略マニュアル


著者:フィリップ・マグロー/著 勝間和代/訳
出版社:きこ書房  2008年9月刊  \1,785(税込)  429P


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1月28日放送の「久米宏のテレビってヤツは!?」に勝間和代さんと茂木健一郎さんがゲスト出演していました。


2人とも本を出せば必ずヒットする人気作家です。
私もお二人の本を何冊か読ませてもらいましたが、勝間さんの本には新しい知識や考え方を教わってためになることが多く、茂木さんの本には共感や共鳴を覚えて心情的、感情的に反応することが多いようです。


この「読書ノート」は心に響く本を優先しますので、茂木さんの本をレビューしたことはありますが、まだ勝間さんの本を紹介したたことがなく、今回、はじめて勝間さんの本(勝間さんの著作ではなく、翻訳本ですが)を取り上げます。



本書は、勝間さんが書いたものではありませんが、カツマ本の1冊に数えても何の問題もありません。


理由のひとつは、もちろん勝間さんが本書を翻訳していることです。しかも書名に「史上最強の」という原題にない言葉を追加しています。
ちなみに本書の英語タイトルは「LIFE STRATEGIES」で、『ライフストラテジー 人生戦略』というシンプルな題名で2001年に出版されています。(渡部昇一氏の翻訳)


本書をカツマ本と呼ぶもうひとつの理由は、勝間さんがこの本に惚れこんでいて、「最も影響を受けた本の一つ」「私の座右の書の一冊」と絶賛していることです。


訳者である勝間さんが本書を評価しているのは、「自己啓発書にありがちな精神論ではなく、個別具体的なマニュアルとなっている」ところです。勝間さん自身、30代前半に仕事と家庭の両方の問題が押し寄せてきたことがあり、本書を読んで解決への第一歩をふみ出すことができた、と強調しています。
出版社も本書をカツマ本ブームに乗せる利点は心得ています。帯に「勝間和代」と大きく書かれていなければ、本書がこんなに売れることもなかったでしょう。


では、勝間さんがこれほど入れ込んだ本書には、何が書いてあるのでしょうか。400ページを越える本の内容を、思いっきり要約してみましょう。


 - あなたは、現実から目をそらしている
 - 問題がひとりでに解決することは、絶対にない
 - 人生の責任は自分にある
 - 戦略を立て、あなたの新しい人生を踏みだそう


50代前半の私が本書を読んで感じたのは、著者のマグロー氏の異常なまでの強さ、タフネスさでした。
祖父の代まで肉体労働していた家系に生まれ、父も自分も苦学しながらアメリカ社会で上昇してきた経歴を持つマグロー氏です。読者に向かっても、自分が当たり前に行ってきたこと――常にファイティングポーズをとることを求めます。


たとえば、第6章に登場するエピソード。同業の精神科医の治療を担当したときのことです。
今や患者となってしまったその医師が語ったのは、心の底まで震え上がった恐怖の体験でした。


たまたま立ち寄った銀行で武装強盗に出くわした彼は、目の前で客や銀行員が次々とマグナム銃で殺される場面を目撃します。
目に入った血と肉片で目が見えなくなった彼は、恐怖で頭が麻痺したまま正面玄関から走り出ました。
すぐに銃を持った犯人に追いかけられ、額に銃を押し当たられたあと引き金の音を聞きます。


弾切れによって奇跡的に命びろいしたものの、彼はPDSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむことになりました。著者のマグロー氏は数週間にわたる治療を成功させ、悪夢や震えの苦しみから彼を解放します。
さらに彼がいつまでも職場復帰しないことを許せなくなったマグロー氏は、荒療治を行います。


いつまでも泣き言を言ってるんじゃない! とばかりに、治療打ち切りを通告したのです。


幸い、彼は恐怖を乗りこえて社会復帰してくれました。
しかし、いつまでも人生にファイティングポーズを取ることを求めるマグロー氏の姿勢は、競争社会に徹しきれない日本人からすると、少し引いてしまう強烈さを持っています。


マグロー氏は、他にも、幼い日の性的虐待で受けた苦しみをひきずる患者、家庭内暴力に耐えている患者に向かって、問題を直視し、克服し、新たな人生戦略を立てることを求めます。


自分を鼓舞しつづけなければ、つい休んでしまう、自称「なまけ者」の勝間さんのような人なら、マグロー氏に付いていけるかもしれません。


心の傷を深くしてしまいそうな人、「そこまでしなくても……」と引いてしまう人にお勧めするのはやめておきます。