副題:停滞と成長の経済学
著者:池田 信夫 出版社:ダイヤモンド社 2009年10月刊 \1,680(税込) 243P
2月3日から連続して取り上げた『希望の仕事術』に続き、今回も題名に「希望」が付いている。
ただし、『希望の仕事術』が仕事の楽しさを思い出させてくれるのに対し、今回とりあげる本は、日本で生きることの希望を捨てるように迫ってくる。
日本経済の停滞は長期にわたっている。
このまま何もしないと、「失われた10年」どころではなく、立ち直れなく
なってしまう。日本経済の危機的状況を、もっとありのまま見て欲しい。
――という主題の一書である。
読んでいて、気持ちが暗くなる本であることを最初におことわりしておく。
著者の池田信夫氏は、1953年京都府生まれ。
東大経済学部を卒業後、NHKに入社し、1993年に退職。
現在は上武大学大学院経営管理研究科教授である。
池田氏の示す「現在の経済学の常識」によると、日本経済は長期停滞期に入っている。
- 職を失うとストーンとホームレスに転落してしまう“すべり台社会”。
- 貸金業法の改正によって、かえって困っている人がお金を借りられなくなるという結末。
- 老人も若者も不幸にする人事システム。
- 景気対策の限界。
若者は職を失い、中高年は社内失業し、身分格差が固定されていく。
日本の経済システムが成功し、高度成長を遂げた時代は終わったのだ。
これからは停滞の時代に入ってしまうのだ――。
あまりに暗い内容なので、要約してても楽しくない。
内容のまとめは以上とさせていただく。
さて、池田氏の論旨は一応理解したつもりだが、理系の学問と違い、政治、経済の分野は、正しいのか間違っているのか、実のところよく分らない。
「改革」を口にする政治家が全く逆の政策を主張していることもあれば、経済学者やアナリストが正反対の予想を述べ立てる。
どちらが正しいのか素人には判定できないのだ。
判定できないが、池田氏は経営学の教授だけあって、自信たっぷりに自説を述べていることだけは分る。
2月17日の池田氏のブログ「勝間和代氏の落第答案」でも、勝間和代氏の最新刊
『自分をデフレ化しない方法』の主張をバッサリ斬りすてていた。(池田氏のブログはこちらを参照)
「こんな学部学生でも落第するような答案を出版してしまう版元(文藝春秋)にもモラルが欠けている」とまで言い切ったからには、世のカツマーたちの怨嗟の声も意に介さないに違いなく、池田氏が太い神経の持ち主であることがうかがえる。
「そのうちなんとかなる」という“希望”を捨て、このままでは未来がないという“絶望”を感じるべきだ。そうすれば本物の改革がはじまる、というのが『希望を捨てる勇気』という題名に込めた著者の思いだ。
しかし、急進的改革は必ず犠牲者を出す。
僕自身は、希望を捨てる勇気のない庶民の一人として、急進的改革ではなく漸進的な改革を望みたい。
たとえそれが本物の改革でなかったとしても。