副題:ものづくり日本の技術者を追ったコミックエッセイ
著者:見ル野 栄司 出版社:中経出版 2010年1月刊 \1,000(税込) 159P
著者の見ル野氏は、もとメカトロニクスのエンジニアで、いまは漫画家である。
エンジニアというと、机の上で設計図を描いているところを思い浮かべるかもしれないが、見ル野氏は機械加工や電気配線をこなし、試作から納品後の現地調整までやってしまう現場あがりのエンジニアだった。
どんなシブい技術を持っているかを尋ねられ、著者が自慢げに答えたのは、「そりゃもう……ヤスリがけでしょうーー」。
男は黙ってヤスリがけ、と本気で考えているエンジニアなのである。
出会った同僚たちも猛者が多く、「六角レンチの回し方でそいつが何年目かわかる」という機械組み立て歴29年の先輩や、仕事漬けで、めったに家に帰らず会社に住んでいると噂される部長もいる。
そんな泥臭い会社でのトホホなエピソードのほか、世界初の電子式テレビを発明した高柳健次郎氏のエピソードや、世界的なスピーカーメーカーや資源探査機器メーカーの技術紹介を交えた構成で本書は描かれている。
ものづくりに賭ける情熱にふれ、毎回のように見ル野氏は男泣きしてしまう。
それは、見ル野氏が、
「今の日本を造ったのは、政治家でも商社でもマスコミでもない。
それは、中小企業の技術者たちだからです!!」
と確信しているからだ。
「韓国、台湾、中国に抜かれ、日本のものづくりはだめになった」とか、「日本企業はものづくりが得意でも、価値づくりは苦手である」等と、最近、日本のものづくりに対する風当たりが強い。
そんな風潮に異を唱えるように、著者は言う。
「女っ気もなく、派手でもなく、身を削るエンジニア。
応援してやってください、彼らの男泣きを――」
僕も技術者のはしくれなので、著者の浪花節に共鳴して手に取った。
世界的に有名な先達の逸話や、今まさに最先端を行く企業の紹介も勉強になったが、やはり一番身につまされるのは、言うことをきいてくれない機械と格闘する見ル野氏自身の経験談だ。
特に新ジャンルのプリクラ機械の開発経験は、修羅場の頻発する地獄のような日々だった。
試作機の調整をしながら、交代でエアパッキン(プチプチシート)の上で寝るという努力の末に、デモンストレーションは成功。
100台の量産注文が入った見ル野氏の会社を襲った悲劇とは……。
ビジネスモデルだの、コアコンピタンスだの、モノよりお金に興味がある人にはお勧めできない。
現場を大切にするエンジニア、ちょっとノスタルジーに浸ってみたいエンジニアにこそ、読んでもらいたい。
登場人物がカッコよくなくても、泥臭くても、ついつい共鳴してしまうに違いない。