ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘


著者:水木悦子 赤塚りえ子 手塚るみ子  出版社:文芸春秋  2010年2月刊  \1,500(税込)  251P


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今週月曜日から、NHK朝の連続テレビ小説で新シリーズ『ゲゲゲの女房』がはじまった。
ゲゲゲの女房』は『ゲゲゲの鬼太郎』作者である水木しげるの夫人が書いた同名の自伝エッセイが原案になっている。


本書はNHKドラマの人気に当て込んだような題名で、しかもつい先月出版されたばかりだが、いわゆる便乗本……ではない。


内容は水木しげる赤塚不二夫手塚治虫の娘たちの鼎談集で、2008年に企画されたものである。



3人の共通点は、偉大な漫画家を父に持ったことだ。


父親たちは売れっ子漫画家ゆえ、仕事に追われ、締切りに追われ、ほとんど家庭の団らんというものがなかった。
学校にいけば、有名人の娘ということでサインを頼まれたり、ときには漫画に登場させてほしいという依頼の取り次ぎを強要されることもある。


反発し、反抗した時代を経て、いま3人は三様に父の仕事を“継いで”いる。



2008年に最初の座談会が行われたとき、意気投合した3人はテープも回りはじめていないのにしゃべり出したそうである。


漫画家の娘という共通点のほかに、意外な共通点が次から次へと出てきた。
父親の年齢が離れているのに、娘達がほぼ同年代というのも不思議に感じられる。


1回目の座談会が終わったあと、赤塚りえ子さんのご両親(お母さんと赤塚不二夫氏)が相次いで亡くなるという事件があり、本としての完成が遅れたが、結果としてタイムリーな出版になった。


第1章の「ずっと父が好きだった」から始まり、本書には「父の仕事場」、「父の女性観」、「父と音楽」など、娘から見た漫画家の生活が明かされる。


印象的だったのは、3人ともずーっと父が好きだったわけではないこと。


家を出て別な女性と家庭を持ってしまった赤塚不二夫は当然として、ほかの2人の漫画家も、「興味ないんだよね。ただの父親だもん」と言われた時期があった。


やがて父の偉大さを再認識するようになる3人を象徴するような1シーンを手塚るみ子さんが本書で紹介していた。


それは、るみ子さんが一番好きな父親の作品『ジャングル大帝』に登場する。


ジャングル大帝の2代目「レオ」の息子「ルネ」は、父親に反発してジャングルを出ていった。都会で挫折してジャングルに戻ってきたルネだったが、すでにレオは死んでいる。
レオの最期を看取ったヒゲオヤジが、「お父さんの話をしようか」と言って、ルネと並んで平原を歩いていくのだが、このラストシーンの背景にレオの形をした大きな入道雲が浮かんでいた。


るみ子さんは言う。

  入道雲に浮かんだ父を見ながら歩いていくくだりは、まさにわたしの
  物語なんですよ。その先にある未来はわたし自身が見つけるべき物語
  なんだけど。


3人がひとつづつ選んだ父の傑作短編が収録してあったり、「まえがき」、「あとがき」のほかに、「なかがき」があったり、楽しい構成に仕上がっている。


話は変わるが、2ヶ月ほど前の久本雅美さんのトーク番組「メレンゲの気持ち」に的場浩司さんがゲスト出演した時のこと。


今は娘とお風呂に入っているが、一緒に入りたくないと言われる前に、娘が小学校3年生になったら「パパは、もう一緒にお風呂に入らないよ」と言うつもりだ。でも、それを告げるのがものすごく辛い、と語っていた。


出演者のあやや松浦亜弥)が、自分も小5の時に同じことを言われてショックだった、とあいづちを打ったのだが、


なんと的場浩司さんは、
  「あややが小5まで一緒にお風呂に入っていたのなら、もう少し大丈夫だね。
   じゃ、娘に言うのを延ばす!」
と前言を撤回してしまった。


バッカじゃないの! という日本中のツッコミが聞こえそうだが、僕には分る。的場さんの気持ちが。


43歳でやっと子どもを授かったせいもあって、僕は娘にメロメロである。
きっと他の父親も同じなんだよねぇ。


ゲゲゲのパパ、レレレのパパ、らららのパパも、もちろん例外ではない、はずだ。


レレレのパパ(赤塚不二夫)だけは、娘との海外旅行に愛人を連れていったりして、可愛いはずの娘に辛い思いをさせたこともあるようだが、そんなレレレのパパも含めて、みんな娘を愛していたし、スゴイなあって言ってもらいたい、尊敬されたい、と思っていたに違いない。


父の死後、何年か経ってからではあるが、レレレの娘も、らららの娘も、父を尊敬するようになり、父の作品を広める活動を開始することになった。ゲゲゲの娘は、ゲゲゲの女房ともども、まだ現役漫画家として活躍している父を支えている。


偉大な漫画家なんて参考にならないかもしれないが、日本のパパとしては放っておけない本である。