隣人祭り


副題:「つながり」を取り戻す大切な一歩
著者:アタナーズ・ペリファン,南谷桂子 共著
出版社:木楽舎(ソトコト新書)  2008年6月刊  \735(税込)  173P


隣人祭り (ソトコト新書)    購入する際は、こちらから


隣人祭り」。


なんだかアヤシイ響きがするこの言葉は、フランス語で「F^ete des Voisins」といいます。(直訳すると、「隣人の豪華な食事」)
主催者は「まわりを照らす者(ペリファン)」という姓を持ち、「不死」を意味するアタナーズを名前に持つアタナーズ・ペリファン氏です。


「これって、いったい何なの? 妙な名前の男だけど、新興宗教だろうか?」


パリではじめて「隣人祭り」を開催したとき、周りの人は警戒したそうです。


本書は、大都会パリのアパートではじまった、この不思議な名前の地域友好イベントを日本に紹介する一書です。



著者のペリファン氏はパリの区議会議員になりたての1989年、自分の無力さをもどかしく感じていました。
強制退去の家族、失業者、鬱病の人、重病の人。問題をかかえた人々を社会福祉施設へ連れて行くことは簡単ですが、福祉政策の失敗によって、現場職員は疲れきっています。


農村社会ならともかく、個人主義の強い都会では助け合い精神が失われています。しかし、今こそ都市部での助け合い精神が求められているのではないだろうか。
思い立ったペリファン氏は、NPO「パリの仲間たち」を立ち上げ、助け合いの精神を形にしていく活動をはじめました。
お年寄りのためのクリスマス・パーティーを開いたり、足の不自由な人に車をまわしたり。失業者には仕事が見つかるようなアドバイスをし、買い物を手伝ったりもします。


行政に何もかも期待するのではなく、自分たちでできることは自分たちの力で解決していく、という姿勢なのです。


あるとき、保育所が突然閉鎖されるという事件が起こりました。


親たちは新しく保育所を開こうとしますが、資金不足で先へ進みません。
この話を聞いたペリファン氏は、助け合いの精神で、各家庭で持ち回りで預かってはどうかと提案しました。
区役所の担当者が「保険はかけてある?」「保育の免許を持つ保母さんはいる?」と問題点をならべますが、ペリファン氏は無視することにしました。


規則でがんじがらめにしてしまえば、せっかくのアイデアが実現できません。


「何かあったらどうするんだ」という警告を無視してスタートさせた自宅保育システムは、その後パリ中に広がっていき、もうすぐ何十軒にも達するそうです。


1999年。ペリファン氏は、ある高齢者のアパートを見回りに行って、孤独死に出会います。


アパートの壁の向こうから、みんなを外に連れ出さなければ。
何か行動を起こそうと思ってペリファン氏がやってみたのは、ささやかなパーティーに集まってもらうことでした。


パーティーに大勢の人が集まり、マスコミに取りあげられたおかげで、「隣人祭り」はフランス全土に広がり、2005年には3000ヶ所で開催されるようになりました。
ペリファン氏の積極的なピーアールのおかげで、2003年にはヨーロッパ全域へ拡がって「ヨーロピアン・ネイバーズ・デー」となり、2008年5月には、日本でも新宿御苑で第1回「隣人祭り」が開催された、とのこと。


アメリカからの情報はたくさん入ってきますが、欧州でこんなムーブメントが広がっているとは知りませんでした。


いまや大きなうねりとなった運動も、「まわりを照らす者(ペリファン)」からはじまりました。


彼が「パリの仲間たち」を創設したとき、自らの心に誓ったというマザー・テレサの言葉を最後に引用しておきます。

  「私の行ないは大海の一滴にすぎません。
   しかし、この一滴がなければ大海にはならないのです」