システム開発 火事場プロジェクトの法則


副題:どうすればデスマーチをなくせるか?
著者:山崎 敏  出版社:技術評論社  2006年10月刊  \1,764(税込)  255P


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前回とりあげた上田紀行著『かけがえのない人間』は、自分の人生を掘り起こすことの大切さを教えてくれました。トラウマをいちど客観視し乗りこえることによって、心の傷も自分の資質に変えていくことができる、というのです。


今日とりあげる本は、この上田さんの教えの実践編のような一冊です。



著者の山崎氏は、ソフトウェア開発で多くのデスマーチ(長時間の残業・徹夜・休日出勤を余儀なくされるプロジェクトのこと)に遭遇しました。
この経験を踏まえ、どうすれば同じ轍を踏まずにすむか、トラブルを未然に防ぐことができるかを提案するのが第1部、デスマーチを振り返るのが第2部、という構成になっています。


ソフトウェア開発の現場には頭を抱えるような大きな問題がたくさん横たわっていて、なかなか整理がつきません。
山崎氏は、第1部でこの混乱状態を冷静に整理し、解決策を伝授しようとしているのですが、とり方によっては、著者が高みからえらそうに物を言っているようにも聞こえます。


ところが、第2部で筆者が原体験を語り出して、雰囲気ががらりと変わりました。傷に塩をすり込むように地獄の日々を回想する山崎氏は、痛々しいほどです。


新入社員として、お客にふりまわされ、無能な上司にふりまわされ、何の意味もない会社の規則に束縛されている姿は、まだ見ていられます。
しかし、中堅になってある程度成功体験を積み、自信をもって臨んだプロジェクトが崩壊した場面は悲惨でした。

  「これはもう、どうにもならない」と強く感じた。実際、何も
  できなかった。


   さじを投げた。


   視野が広がればデスマーチは解決できると思っていた。しかし、
  実際は自分ひとりの視野が広くなっても、まわりの共感を得られ
  ないとうまく動けない。「こうすべき」と言って、たとえそれが
  デスマーチを抜け出す最良の方法だったとしても、まわりの共感
  が得られなければ、それは実行されず、現状は何も改善されない
  のだ。


システム作りに疲れた山崎氏が会社を辞めることになったとき、会社の非情さを示す“しうち”にやられます。


14年間も忙しかったのだから、最後の1ヶ月くらいは溜まっていた年休を使わせてくれる配慮が欲しかったのですが、実際には1ヶ月という短期の仕事に送り込まれました。
やはり火を噴いていたプロジェクトに忙殺されたあげく、退職したあと、デスマーチの原因が山崎氏であるかのように非難されます。


定期収入のなくなった山崎氏は、月3万円のアパートに引っ越し、少ない収入をやりくりしながら、多くの本を読みました。


お金の本質について、「人」について、ビジネスについて、成功の秘訣について。


人生観を大きく変えた山崎氏は、株の売買や執筆活動をしながらフリーのプログラマの仕事もこなしていきます。
一人で作るシステムの限界に行き当たったとき、山崎氏はチーム(組織)を作る必要を痛感し、失敗せずにプロジェクトを取り仕切る技術に思いを致すようになりました。


こうして生まれたのが、第1部で述べている火事場プロジェクトをなくす4つの観点(バードビュー、コミュニケーション、エモーション、フィードバック)です。



プロジェクト経験者(特にITプロジェクト経験者)は、
  第1部 ⇒ 第2部 ⇒ 第1部の順で
読むことによって、深い共感を得るに違いありません。


プロジェクト管理に何の興味も関心もない方には縁のない本かもしれませんが、かけがえのない自分を取り戻した体験記として、第2部だけでもお勧めします。