「笑う脳」の秘密!


副題:賢い人のアタマは何が違うのか?
著者:伊東 乾  出版社:祥伝社  2009年3月刊  \1,575(税込)  244P


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著者の伊東さんは、レナード・バーンスタインに学んだ経歴を持ち、指揮も作曲もする音楽家です。しかも、東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了も終了していて、2000年には東京大学はじまって以来の芸術実技の教官(助教授)になりました。


芸術家にして理系と文系の大学院を修了、という経歴を持つ伊東さんから見ると、世の中に流布している「“芸術系”は、“文系”でも“理系”でもない」という考え方は間違っています。


本人の経歴が何よりの証拠なのは言うまでもありませんが、研究内容でも世の常識を打ち破る分野に挑戦してきました。「文系」と「理系」の基礎に立脚して芸術の問題に取り組む、という研究を通じて、文系・理系を越えた「新しいオーソドックス」を考えてきたのです。


楽家の仕事から得られる奥深い知恵を、物理や脳認知科学で裏付けて知ってもらおう、というのが本書の目的です。


本書の導入部で伊東さんが取りあげたのは、音楽の演奏のテストでうまく弾けない学生のお話でした。
楽譜通りに弾いてはいるのですが、電報の文章を読むような演奏をする学生がいます。また、一般学生の面接試験や口頭発表で、難しい質問に立ち往生してしまう学生がい
ます。


両者に共通しているのは、呼吸が浅くなっていることでした。酸欠やパニック状態になってしまえば、本来持っている力を出し切れないのです。
脳の部位ごとの酸素濃度を可視化する装置の力を借り、伊東さんは脳の酸素不足と人間の行動について、解説を開始します。


養老孟司さんや茂木健一郎さんのおかげで脳に関する本が売れるようになりました。

本書が類書と違っているのは、音楽家である自分自身が被験者となった脳血流写真を見せたり、音楽家の行動を通じて脳の「酸欠」について教えてくれるところです。


楽家ならではの面白い分析がたくさん込められた中から、特に印象に残った2点を紹介します。


ひとつは、音楽家の「暗譜」についてです。


楽家が音符を覚えるときに、3つの命綱があります。それは、「耳の暗譜」、「手の暗譜」、「目の暗譜」の三つです。
「耳の暗譜」は耳で覚えること、「手の暗譜」は演奏家が楽器を演奏する体の動きを通じて覚えることで、ここまでは分かるような気がします。
三つ目の「目の暗譜」は、楽譜の画面全体を写真のようにイメージで焼き付けるという記憶方法です。
私もクラシック音楽ファンの一人として、交響曲を聴きながら譜面を追ってみることもありますが、とても目に焼き付けるなんてワザは使えません。しかし音楽家にはこの才能があり、伊東さんのクラスになると、目の暗譜で感動してしまうと言います。


「ここでこの音がこうなって……ああ、すばらしい!」とシアワセになってしまうという、ちょっと変わった人種なのですよ。


映画「アマデウス」の最後のほうでモーツァルトがライバルのサリエリに楽譜を書き取ってもらうシーンがありましたが、自分の頭の中にある音符を人に伝えるのは、モーツァルトのような天才でなくても大半の音大生が訓練すればできるようになる、とのこと。


素人から見ると天才的なワザも訓練次第でできるようになる、というのは、新しい発見でした。


もう一つは、本書の題名にもなっている「笑う」ことの効用です。


舞台でアガッてしまわないようにするには、脳の酸欠を防げばよい。酸欠を防ぐためには、「笑い」と「癒し」が必要だ。


楽家の例で言うと、マスコットや子どもの写真のように可愛いものを楽器ケースに入れておく人がいたり、本番を控えた演奏者の楽屋では、よくトランプをしたり、将棋や囲碁を打つ人がいます。
これは、知らず知らずのうちに「癒し」を得ているのです。


そして、「笑い」については……。


今日は、ここまでと致します(笑)。