強い者は生き残れない


副題:環境から考える新しい進化論
著者:吉村 仁  出版社:新潮選書  2009年11月刊  \1,260(税込)  251P


新潮選書 強い者は生き残れない 環境から考える新しい進化論    購入する際は、こちらから


今回取り上げるのは、「新しい進化論」。


理系の僕が書いているメルマガだからといって、読者が理系とは限らない。
でも、子どもたちの「理科離れ」が問題になっている昨今だから、大人がみほんを示すことも大切だと思う。


理系的好奇心を起こして、お付きあいいただけると嬉しい。



生物は進化する、というダーウィンの進化論が世の中に広まったあと、
  ではどのように進化してきたのか
という問いが生まれた。


本書は、ダーウィンが見逃していた「環境変動」に注目し、強い者は生き残れない、――つまり、強い生物は後世に子孫を残し続けることができずに絶滅していく、という新しい学説を解説した一書である。


ダーウィンの「自然選択理論」の骨子を、著者の吉村氏は次のように解説する。
(1) 生物の個体には形質のばらつき(変異)がある。
(2) その形質の違いが生存率や繁殖率に影響を及ぼす。
(3) この形質は遺伝する場合がある。


突然変異で形質の違った生きものが生まれ、環境に適合するものが生き残っていく。


さまざまな異論が発せられたが、ダーウィンの学説は世の中に受け入れられ、今では定説となっている。


その後の研究は「環境は一定で変わらない」という前提で行われてきたが、吉村氏は、
  「環境の変化や変動は進化を考える上でもっとも重要な要因で
   あると私は思う」
と言う。


“ざっくり”と要約すると、生物の突然変異はしょっちゅう起こっているが、生き残りにいい影響もなければ悪い影響もない「中立的」な突然変異が多い。


「生き残り」が劇的に変わるのは環境が変わったときで、いままでと同じ子孫を残そうとしても、環境がそれを許さない。ランダムに起こる突然変異のうち、たまたま生き残りに適した突然変異を果たした生物だけが生き残り、他は絶滅してしまう。


地球が誕生してからの歴史は、絶滅と生き残りの歴史だ。


――以上が、前半部。


驚いたのは、約22臆年前から約5億5千万年前にかけて何度も地球全体が凍結してしまった(全球凍結=スノーボール・アース)ことだ。


もちろん生物のほとんどは絶滅してしまった。


この後も地球の環境変動によって何度も生物は大量絶滅し、生き物はほとんどいなくなってしまったそうだ。


古生代カンブリア紀にいろんな生物が爆発的に増えるが、その後も「5大絶滅」という大量絶滅があった。


人類のおかげでどんどん絶滅種が増えている現在は、6番目の大絶滅期の始まりかもしれないが、それは本書のメインテーマではない。


後半では、生物が群れるようななった理由を明かし、動物の「一夫一婦制」が合理的進化であることを解説する。
ずんずん人間社会に同じ理論を展開していった結果、文明の栄枯盛衰、民主主義や資本主義の生物学的考察へと進む。
このあとの「強いものは生き残れない」という主題への、見事な論の進め方は、読んでのお楽しみとさせていただく。


数十臆年の地球の歴史を貫く法則を見つけた! という著者の興奮が伝わってくる一書。ぜひ文系の方も手にとっていただきたい。


本書の「あとがき」には、吉村氏の前半生の「波瀾万丈の環境変動」が書かれている。


幼少期から虫が大好きで、小学生になるとお味噌汁用のシジミを飼ってみたり、貝の採集、昆虫採集に夢中になったりした。


本州に分布する蝶類の8割を採集したというから、尋常ではない。


そのくせ、学校の成績はいつも学年ビリで、5段階評価で平均2が最高だった、とのこと。(つまり、ほとんど1と2ばかりだったらしい)


後に都立新宿高校に進んだとき、小学校の同級生から、
  「ここは、優等生が来る学区内でもトップクラスの進学校だ。
   なぜ、小学校でクラス1バカのおまえがいるのだ!」
とびっくりされた、とのこと。


その後、「自分で一から考える」能力を発揮し、多くの人に支えられながら、海外留学、研究生活を経て、現在は静岡大学助教授を務めている。


自らの半生を通じて確信するのは、環境不確定性に対するには、友人・親友を作ることが最も大切だ、ということ。


この「あとがき」だけでも、本書全体に匹敵する説得力がある。


濃い人が書いた、濃い一冊だった。