自分の本を出版したい人に向けたアドバイス書籍を3冊とりあげます。
私自身、幸運に恵まれて本を出した経験を持っていますが、今後も本を出そうと思ったとき、初心に戻るためにいろいろな人のアドバイスを再確認しようと思って手に取りました。
3人のうち野村氏は実際に小説やビジネス書を出版している作家、清水氏と校條氏は編集者です。
実際に自分で作品を生み出している作家のアドバイスが良いか、作家を見つけて育ててきた編集者の助言のほうが役にたつか、意見の分かれるところです。
作家の保坂和志は、『書きあぐねている人のための小説入門』の中で、「馬が馬に走り方を教えることができればもっとずっと速く走るようになるだろう」と書いていて、編集者が小説の書き方を伝授しようとすることを苦々しく舌打ちしています。(『スーパー編集長のシステム小説術』の記述より)
3冊目の著者で編集者の校條氏は、「作家は自分の作品しか書けない」、「概して自分の流儀のみを押し付ける危険性に満ちている」と反論していますし、2冊目著者の清水氏も「実際に読んでみて実践的に教わるところのある本はあまりない」、「すぐれた選手がすぐれたコーチになれるとは限らない」と手厳しく断じています。
今回、3冊読みくらべてみた私の感想は、「どちらが良いというものではない」というものです。
作家も編集者も、別の視点から良いアドバイスをしてくれるのですから、読者が引きずられる必要はありません。著者どうしの仲が悪くても、「いいとこどり」の精神で、自分にとってタメになる箇所だけ吸収するのが一番です。
では、ご指南の内容を順に見ていきましょう。
会社勤めをしながら3年間で作家になる方法
著者:野村 正樹 出版社:青春出版社 2002年7月刊 \1,365(税込) 255P
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著者の野村氏は、書名のとおり、会社勤めをしながら3年で作家デビューを果たした実績をお持ちです。
野村氏は、サントリーのサラリーマンをしながらミステリーの新人賞に応募しつづけ、受賞は叶わなかったにもかかわらず『殺意のバカンス』で推理作家としてデビューを果たしました。
その後8年間も二足のわらじをはき続け、50歳になって退社・独立した経歴を持っていますので、才能に恵まれて華々しく作家になった人とはひと味違うアドバイスをしてくれます。
本書の内容自体も、「本をだしたいなぁ」と考えている4人の登場人物が、セミナーに出たり情報収集したりして作家になる方法を発見していく、というストーリー形式をとっています。
高いところから教えを垂れるのではなく、読者も興味を持ってくれるような工夫を施しているところが、いかにも「作家」らしいところです。
4人で聞きに行ったセミナーの講師として、なんと著者本人が登場したり、4人の登場人物の名前でちょっとお遊びしたり、少し著者がハメを外している部分もありますが、その分、読者を飽きさせずに、文章力、企画力、売込み力を身につけさせようとする熱意が伝わってきます。
原稿用紙で千枚を書けば、どんな人でそれなりの文章が書ける。
三千枚を書くと、見違えるほど上手になる。
など具体的に数字を挙げているところが、大いに参考になります。
また、「新人作家には、とても有利な時代」、「とくに会社員にとっては絶好のチャンス」と読者に勇気を与えると同時に、
デビューできるかどうかよりも作品を書いている時間の幸福に
浸れることが最高
と、書くことの喜びが大切であることを強調していました。
後輩が自分に続いてくれることを、本気で応援しようという熱意にあふれた一書でした。
2週間で小説を書く!
著者:清水 良典 出版社:幻冬舎新書 2006年11月刊 \777(税込) 234P
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2冊目の『2週間で小説を書く』という題名は、まるで促成栽培のような印象を与えますが、決して出版が安直だと言っているわけではありません。14回の連続講義で作家になる方法を伝授しようという内容を「2週間」と言いかえただけです。
「小説は読まなくても書けるか?」という質問に、「書けるのである」と答える清水氏ですので、刺激的な質疑応答が繰り広げられていきます。
書かれている内容は多岐にわたるので、印象に残った項目のみリストアップ
しておきますね。
- 断片から書く
- 最初の記憶を書く
- 話のない小説
- ゼノンの矢
- 場面を作れ
- 期待を裏切れ
- 解決よりも変化を
- 一瞬を書く
- 人物スケッチ
- なりすまし文体
- サークル- 同人誌の功罪
- 新人賞の向こう
- 印税生活の実態
- 百年後の知己を求めよ
特に印象に残ったのは、「小説で、これだけはやってはいけないことは何ですか?」という質問に答えた次の言葉でした。
「盗作、あるいは盗用です。(中略)それ以外でやってはいけないのは、
原稿の二重売りです」
盗作は論外として、新人がよくやってしまうのが「原稿の二重売り」です。
何かの新人賞に応募しても、受賞するかどうか分からないので、全く同じ作品を別の賞に応募してしまう。または、少し手直しして、別の作品として別の賞に応募する。
自分が書いたものですから盗作ではありませんが、一度使ったアイデアを使い回すのは恥ずかしいことだそうです。
スーパー編集長のシステム小説術
副題:才能なんていらない!
著者:校條剛 出版社:ポプラ社 2009年4月刊 \1,575(税込) 286P
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3人目の校條剛(めんじょうつよし)氏は、編集者系です。
「小説新潮」に29年も在籍し、最後の9年間は編集長を務めました。定年前に教養新書に異動したときにベストセラー『国家の品格』を世に送り出したという経験もお持ちです。
もう3冊目なので少し飽きていたのですが、この『スーパー編集長のシステム小説術』が一番刺激的でした。
創作の心がけからはじまり、構想を練る方法、描写で注意すべきこと、タイトル、推敲など仕上げの仕方、最後に売込みの方法、果てはペンネームのつけ方まで、300ページ近い分量で、ていねいにアドバイスしています。
ただ、本書のターゲットはエンターテインメント小説の作家志望者に限定されていますので、他のジャンルを志望している方は、やや冗長に感じるかもしれません。
しかし、小説、特に純文学が自己の内面ばかりを描こうとすることに対し、自分探しを作品に持ち込まず、おもしろい読み物を作る職人に徹するという校條氏の姿勢は、とても納得できるものでした。
最後に校條氏の励ましの言葉を紹介させていただきます。
「ある程度の訓練期間さえ与えられれば、誰にでも小説は書けるのです」
この言葉に半信半疑の方も、「書いてみたい」と考えているのであれば、どれか1冊読んでみてはいかがでしょうか。