著者:石黒 謙吾 出版社:学研新書 2009年1月刊 \777(税込) 188P
インターネットの「脳内メーカー」というサイト、覚えてますか?
名前を入れると、その人の頭の中を漢字で表現するというお遊びサイトで(たとえば 浅沼 ヒロシの脳内)2007年に大ヒットしました。
「エア新書」というのも2008年のエイプリルフール(4月1日)に登場したウェブサイトで、タイトルと著者名を入力すると新書のようなカバーが表示されます。ひょっとするとお笑いサイトとして、「脳内メーカー」の2匹目のどじょうになるかもしれません。
……が、
企画はいいのに、中身がイマイチなんだな〜。
そう感じた編集者が、知りあいの作家にもちかけました。
「石黒さんが作ったら面白くなると思うんですけど、
本にしてみたらどうですか?」
石黒謙吾さんは『盲導犬クイールの一生』で知られる作家ですが、他にも、何の役にもたたない図解集『図解でユカイ』の著者として、また、ダジャレの奥深さをとことん追求した『ダジャレヌーヴォー』の著者として、お笑い本の職人という一面も持っています。
石黒さんの芸風、いや作風は、ひとことで言うと「そこまでやるか!」という徹底性が特徴です。たかがお遊びに、どうしてそんなにエネルギーを注げるのか、とツッコミたくなるような力の入れ方なのです。
編集者に言われて、さっそく「エア新書」のサイトを見てみた石黒さん。
やっぱりアマチュアの投稿はピリッとしてないなあ
自分が書けばイケルかも
と、ノってきました。
かくして、架空の新書を100冊掲載した本物の本――“リアルエア新書”が刊行されることになりました。
で、本の内容に入る前に、ひとつ余談です。
石黒さんが本書を出すきっかけになったという本家「エア新書」を探してみようと思い、「エア新書」というキーワードでググってみました。
ところが、上位に表示されるのは石黒さん関係のページばかり。
本家サイトは、21番目にやっと顔を出しています。(http://airbook.jp/)
ネット世界のコンテンツは、同じ名前の本が出ると、あっという間にリアル世界の話題に負けてしまうのですよ。
紙の出版は、まだまだ影響力があるぞ、という実例です。
本題にもどりましょう。
本書には、有名人100人の架空の新書が載っています。
奇数ページにタイトル、サブタイトル、帯コピーデザインが描いてあり、ページをめくると、もう裏表紙(笑)で、ここに見出しが5本。
あぁ、あるある。この人なら書きそう! と笑っちゃいます。
ここで、どれほどおもしろいネタであふれているかをたっぷり紹介したいところなのですが、具体例を紹介すると、そのぶん楽しみが少なくなってしまいます。
もったいないので、石黒さん自身の宣伝文句に載っている2冊だけにしときますね。
『なぜ、脳を使うと髪がモジャモジャになるのか?』
――自ら体現して見せるクオリアの世界
茂木健一郎
<帯>
脳科学と関わり深い髪形の全容を、
筋収縮の数理的モデルで解明
<見出し>
ニューロンが伸びて縮れ毛になって生えてくる
髪の乱れにあっと気付いた時が「アハ体験」
考えると脳みそにシワが増えるのと毛は同じ
プロフェッショナルー髪形の流儀
「赤毛のアン」の大ファンーこれぞ原体験!
『ママでもできる大外刈りの技術』
――男に襲われたら「狙うは金!」
谷亮子
<帯>
通り魔多い恐ろしい時代、
子供を暴漢から守りたい!
<見出し>
もうお母さんも護身術は必須の時代
料理はスクワットしながら
夜はベッドで寝技の練習も週1ペースで
ダンナさんにはバットを用意してもらおう
髪はつかまれないようにてっぺんで結ぼう
いかがですか?
これでもか、という100冊の表紙だけでも濃〜い内容の一冊ですが、さすが分類王の石黒さん。冒頭で新書ブームと出版界の事情にふれ、主な32種類の分類マップ、新書らしいタイトルの構造分析など、全部で20ページを費やして学術的分析っぽいご託宣を並べています。
「フローチャートで理解する[石黒式ネタ作り]の発想法」に至っては何をか言わんや。「そこまでやるか!」と言いたくなる作風を遺憾なく発揮しているのですよ。
本書を読まずして、新書を語るなかれ!